「あの……佐藤くん、ありが――」
助けてもらったお礼を伝えようと、咲夏は消え入りそうな声で言葉を紡ぎ出した。
けれど、その感謝の言葉を最後まで言わせる前に、怜の口から吐き出されたのは、想像をはるかに超える冷徹な一言だった。
「お前、バカなの?」
「え……?」
あまりの物言いに、咲夏はぽかんと呆気にとられる。
怜は目に見えてイライラした様子で咲夏の目の前に立つと、長い腕を躊躇なく伸ばした。
――バンッ!!!
中庭に、激しい金属音が響き渡る。
咲夏のすぐ耳元、自販機の硬いボディに、怜の大きな片手のひらが強く叩きつけられていた。
いわゆる、少女漫画の大王道シチュエーション『壁ドン』――いや、今回は『販機ドン』だ。
けれど、そこにはロマンの『ロ』の字も、甘酸っぱい空気も微塵も存在しなかった。
至近距離で見下ろしてくる怜の瞳には、冷たい怒りの炎がゆらゆらと灯っている。
「そんな格好して、ひとりでノコノコうろついてるから絡まれんだろ。少しは考えたら分かんだろ。なんだ?お前、マジで頭悪いわけ?」
容赦なく降ってくる冷酷な日本語の数々。
あまりの剣幕と、次から次へと浴びせられる毒舌に、咲夏はパニックを通り越して頭のなかが混乱し始めていた。
確かに自分は派手な白ギャル姿だけれど、中身はあの地味で内気な安達咲夏のままだ。
こんな風に男子から激しく怒られた経験なんて一度もない。
けれど、怜の言っている言葉を一つずつ脳内で噛み砕いて、陰キャならではの超ポジティブな翻訳を試みた結果、咲夏はある一つの結論に達した。
「ええっと……つまり……、佐藤くんは私のこと、心配してくれてるってこと?」
咲夏が首を少し傾げながら、大真面目にそう問い返す。 その瞬間、今度は怜の方が言葉を失ったように目を見開いた。
まさかそんな天然な返しが来るとは思っていなかったのだろう。
ピキリと怜の動きが数秒間停止する。
「……はぁっ!?」
やがて、怜は頭を抱えるようにして、本日最大級の深いため息をついた。
自販機についていた手を鬱陶しそうに離し、これ以上ないほど嫌悪感を露わにした目を咲夏に向ける。
「お前みたいな、おめでたいやつ……マジで心底嫌いだわ」



