「――何してんすか?」
品性のない笑い声が響く中庭に、それらを一瞬で凍りつかせるような、ひどく冷ややかな声が割り込んできた。
チャラい3年生の先輩たちとは明らかに違う、聞き覚えのある少し低めのトーン。
咲夏が弾かれたように声のする方へ目を向けると、そこには驚くべき人物が立っていた。
「佐藤、くん……?」
思わずその名前が口からこぼれ落ちる。
そこにいたのは、冬弥の親友であり、那智の幼なじみである佐藤怜だった。
怜は片方の手を制服のズボンのポケットに突っ込んだまま、気怠げな足取りで近づいてくる。
そのもう片方の手には、しっかりと自分のスマホが握られており、カメラのレンズが真っ直ぐに3年生のグループへと向けられていた。
「お前、なんだよ。引っ込んでろよ2年」
「これ、今リアルタイムで録画中なんすよね。学校の裏掲示板かSNSにでも丸ごとアップされたくなかったら、さっさと引いた方がいいっすよ、先輩方」
怜は表情一つ変えず、淡々と画面を突きつける。
液晶画面には、威圧的な態度をとる先輩たちの姿がはっきりと映し出されていた。
現代の高校生にとって、ネットへの拡散という脅しはこれ以上ないほど有効な武器だ。
怜の底冷えするような瞳と、一切の迷いのないスマホのレンズに気圧されたのか、3年生の男たちは顔を見合わせた。
「……ちっ、冗談だよ。いちいちうるせぇなぁ」
「行こうぜ。ノリの悪い2年だな」
吐き捨てるように舌打ちをすると、男たちはすごすごと、ぞろぞろと中庭の奥へ去っていった。
「(……あ、よかった……っ)」
張り詰めていた緊張が一気に解け、咲夏はその場にへたり込みそうになる胸を、なんとか持ちこたえさせて深く息を吐いた。
腕の中にギュッと抱きしめられた知華のいちごミルクと那智のブラックコーヒー、そして自分の桃ソーダの缶が、咲夏の震える体温でわずかに温もりを帯びている。
ピンチは去った。けれど、咲夏の心臓はまだ別の意味で大きく脈打っていた。
なぜ、佐藤怜がここにいるのか。
「はぁ……」
去っていく先輩たちの背中を見送った怜は、これ以上ないほど面倒くさそうに特大のため息をついた。録画を止め、スマホをポケットにしまい込む。
そして、ゆっくりとした足取りで、未だに硬直している咲夏の目の前まで真っ直ぐに歩いてきた。
怜の長い影が、咲夏の派手なミニスカートの上に重なる。
その冷ややかな瞳の奥にある、昨日コンビニの前で見せたあの「すべてを見透かしているような光」が、至近距離で咲夏をじっと射すのだった。



