夏と冬が重なれば。【完結】

「ねぇ、彼女ー♪今ひとり?」
「ちょっと俺たちと遊ばね?」
「2年生?だよね。近くで見ると、超可愛いじゃん」

 上から降ってきたのは、予想通り、先ほどベンチではしゃいでいた3年生の先輩たちの軽薄な声だった。

 咲夏は心臓が口から飛び出しそうなほどの衝撃を受け、抱えていたジュースを危うく地面に落としそうになる。

必死の思いで缶を腕に抱え込み、顔を引きつらせながらも、精一杯の拒絶の笑顔を向けた。

「す、すみません。今、急いでるので……っ」

 これ以上関わってはダメだ。
本能的な恐怖に急かされるようにして、その場をすり抜けようとする。

しかし、男たちの大きな身体が、咲夏の逃げ道を塞ぐようにして左右から回り込んできた。

「えー、つれねーじゃん。そんなに急がなくていーでしょ」
「そんな短いスカート履いてさ?俺たちのこと誘ってんだろ?」
「いーじゃん、ちょっとだけでいいからさ。俺らの相手しろよ」

 じりじりと距離を詰めてくる先輩たちの、下卑たニヤニヤ顔。

 自分が努力して、オシャレを貫いてきたもの。
それが、彼らのような人種から見れば「誘っている」という格好の理由にされてしまう。

その悔しさと、女性の力では到底太刀打ちできない圧倒的な体格差に、咲夏の足がすくみそうになる。

「ごめんなさいっ!友達を待たせているのでっ!」

 声を震わせながら何度も断るが、彼らは咲夏の焦る様子を面白がるばかりで、一向に引く気配がない。

 時折、中庭を通りかかる他の生徒たちが、何事かとチラチラとこちらに視線を向けてくる。

けれど、相手が派手な3年生のグループと、ギャルのトラブルとあっては、関わり合いになりたくないのだろう。

誰もがすぐに目を逸らし、足早に去っていってしまう。

助けを呼ぶ勇気を持つ者など、そこには一人もいなかった。

(やだ……っ、どうしよう……!)

 目の前が暗くなるような困惑と恐怖のなか、咲夏はただただ立ち尽くす。

 そんな咲夏の怯えた瞳を見て、3年生の先輩たちはさらに声を上げて嘲笑った。

「あれ?もしかして困ってる?そういう顔もマジで可愛いじゃん~ギャハハ!」

 品性のない笑い声が、静かな中庭に不快に響き渡る。

 知華のいちごミルクも、那智のブラックコーヒーも、自分の桃ソーダも、冷たい缶が腕の中で虚しく結露していく。

 誰か、助けて――。

 声にならない悲鳴が咲夏の胸の奥で木霊した、まさにその瞬間だった。