「そういえばさ、あれから連絡先は交換できたけど、朔先輩とのデートの話とかはどうなったの?」
「うーん……それがね、バスケ部の練習が多すぎてなかなかタイミングが合わないの!試合も見に行きたいけど、まだ彼女でもないし、堂々と応援に行くのもなんかねぇ……。まさに恋の迷走中~」
知華ははぁ、と深いため息をついて、完全に元気をなくしている。
「そっかぁ……。うちの高校のバスケ部、全国狙えるくらい強いもんね」
咲夏は共感するように頷きながら、手にしたシャーペンを鼻の下に挟んで、一緒にうーんと唸った。
冬弥があれだけ毎日、昼休みになるやいなや体育館へ走っていくのも、それだけ部活に本気だからだ。
「怜のやつも、珍しく最近バタバタしてたな。遠征がどうとか言ってたし」
それまで黙ってスマホをいじっていた那智が、思い出したように口を開いた。
その瞬間、咲夏と知華の「恋バナセンサー」がピピッと同時に反応する。
二人はバッと勢いよく顔を上げ、那智の机へと詰め寄った。
「ね、ねえ、那智!那智と佐藤くんって……その、恋愛的にこう、特別な関係になったことって、今まで一回もないのっ!?」
咲夏が興味津々で目を輝かせると、知華も「私もそれ超聞きたかった!」と大きく身を乗り出す。
昨日、コンビニの前で見せたあの絶妙な掛け合いは、ただの同級生のものとは思えなかったのだ。
しかし、那智は手に持っていたチュッパチャプスを口からぽろりと落としそうになりながら、秒で首を横に振った。
「は?ないない。アイツ、中身チキンだし。まず有り得ない」
「えー!でも、昨日あんなに言い合ってて、すごくいい感じだと思ったんだけどなー」
咲夏がくすくすと笑うと、那智は「からかうなよ」と少しだけ耳を赤くしてそっぽを向いてしまう。
「ま、アイツとはただの腐れ縁だから。昔、一緒に泥んこになって遊んでただけの仲」
「なにそれ、少女漫画の王道じゃん!幼なじみルート熱いっ!」
知華がパチパチと手を叩いて盛り上がる。
友達の恋バナに一喜一憂し、笑い合えるこの時間が、咲夏はたまらなく愛おしかった。
ふと壁の時計に目をやると、昼休みも残り半分を過ぎている。
「あ!ちょっと委員会のことで職員室に用事あるんだった。ついでに自販機でジュース買ってくるけど、二人は何かいる?」
立ち上がった咲夏に、知華がすぐに顔を輝かせた。
「え、いーの!?じゃ、私いちごミルク!」
「私はブラックコーヒーで。さんきゅ」
「了解、任せて!」
「咲夏ちんありがとぉー!」
咲夏は二カッと笑うと、お財布を手に、賑やかな2組の教室を後にした。
廊下に出ると、窓から心地よい春の風が吹き抜ける。
親友たちの恋を応援しつつ、自分もいつか"冬弥くん"と呼ぶ約束を果たさなければならない。
胸の奥に心地よい緊張感を抱えながら、咲夏は職員室へと足を早めるのだった。



