嵐のような甘いハプニングから一夜明けた、次の日の昼休み。
お弁当を食べ終えた2組の教室の窓際では、知華が昨日から引き続き、るんるんと上機嫌な様子で咲夏の机に身を乗り出していた。
「てかさぁー、咲夏ちん!昨日のあの爽やか王子との名前呼びのやりとり、マジで特大のLOVE事件だったよね!」
「ちょっと!声が大きいってば!そんなんじゃないからっ……!」
知華のストレートすぎるネーミングセンスに、咲夏はパッと顔を赤くして大慌てで周囲を見回した。
冬弥はいつものように、昼休みが始まるやいなや体育館へとバスケの練習に向かっている。
彼の姿が教室にないことを確認して、咲夏はホッと小さく胸をなでおろした。
そんな咲夏の様子を横目で見ながら、那智が手元のスマホから視線を上げ、少し呆れたように口を開く。
「でもさ、なんでせっかくのチャンスだったのに、下の名前で呼ぶのを断っちゃったんだよ。もったいねー。ギャルならそこは一歩踏み込むべきだろ?」
「だって……っ」
那智の正論に、咲夏はピンクベージュの髪を揺らしながら、きゅっと唇を結んだ。
思い出すだけで、今だって心臓の音が早くなっていくのが分かるのだ。
「だって……本当に下の名前でなんて呼ばれたら、確実に心臓がもたないんだもん……っ!」
カッと耳まで真っ赤に染め上げた咲夏は、それ以上親友たちのニヤニヤ顔を見ていられなくて、ついに両手でパッと顔を覆い隠して机に伏せてしまった。
「――っ、可愛すぎか!」
那智が思わずそう叫び、机の上で小さくなっている咲夏の頭を、今度は呆れ混じりの笑顔で小突く。
外見は誰もが振り返る可愛いギャルなのに、中身は驚くほどにピュアで、恋に不慣れな少女のままだ。
そのギャップが、親友の目から見ても愛おしくて仕方がなかった。
「あーあ!いーなー、いーなー!咲夏ちんは爽やか王子とそんなに急接近してるのに!」
今度は知華が、がばっと自分の机に上半身を投げ出して、クッション代わりに両腕を敷いて伏せ込んだ。
「私も朔先輩と、そんな風にラブラブしたーーーいっ!」
体育館裏での連絡先交換という歴史的快挙を成し遂げた知華だったが、やはりその先のステップとなると、次の一歩に悩んでいるらしい。
「ふふ、知華だって、朔先輩と連絡先交換できたんだから凄いよ」
咲夏は両手をそっと顔から外し、まだ熱の残る頬を机に押し当てながら、同じように恋に悩む親友を見つめて微笑んだ。



