お目当ての期間限定ドリンクを求めて駅前のコンビニへ滑り込んだ三人だったが、自動ドアをくぐる前に、思わぬ先客とばったり出くわすことになった。
コンビニの前で、手にしたタピオカジュースを飲みながら談笑していたのは――他でもない、冬弥と、その友人である佐藤 怜だった。
「えっ……!」
「あれ?安達さん達じゃん♪お疲れー」
咲夏たちが驚いて足を止めるのと同時に、冬弥がすぐに気づいて、いつも通りの眩しい笑顔でひらひらと手を振ってきた。
「きゃー!咲夏ちん!これ絶対LOVEフラグだよっ!」
隣で知華が、咲夏だけに聞こえるような小声で興奮気味に耳打ちしてくる。
咲夏は心臓のバクバクを必死に抑え、ちゃんと可愛く笑えているか内心冷や汗をかきながら、なんとか声を絞り出した。
「あれ?観月くんたちもタピオカ?」
「出た、しりとりギャル。あ、元ヤンもいんじゃん」
咲夏と冬弥のやりとりを、横から怜が少し訝しげな、冷ややかな視線で遮るように呟いた。
しりとり? 元ヤン?
あまりに不意を突かれたワードの羅列に、咲夏は開いた口が塞がらなくなる。
「ぶはっ!おい、怜!色々失礼だから!」
冬弥が急に吹き出して笑いだし、すかさず怜の肩を小突いた。
「ごめんごめん!安達さん達の下の名前が『しりとり』みたいに繋がるるから、こいつ勝手にそんな呼び方してんだよ。本当にごめんねー!っていうか、元ヤンは言い過ぎだぞっ!」
「うっさい、チキン」
冬弥の解説をスルーして、今度は那智がギロリと鋭い視線を怜にくれてやる。
元ヤンの凄みが一瞬だけ溢れ出ていた。
「え、ちょっと待って……なっちと佐藤くんって、何か接点あったの!?」
知華が驚いて目を丸くすると、怜は「ちっ」と不機嫌そうに舌打ちをした。
「幼なじみなんだよ」
「腐れ縁」
那智の言葉が、怜の声に綺麗に被さる。
「えー、そうなんだ!意外だね……っ」
咲夏が苦笑いしながら二人の距離感に驚いていると、怜がふいにつまらなさそうな目を咲夏に向け、小さく鼻で笑った。
「安達さんも、人のこと言えないじゃん」
「え……?」
ぽかんと口を開ける咲夏。怜の意味深な発言の真意が分からず硬直するが、そこへ再び冬弥が割って入った。
「こら、怜!お前マジで言い過ぎだっての!ごめんね安達さん、こいつ色々拗らせてるからちょっと尖ってんの」
冬弥が申し訳なさそうに笑う。
咲夏は怜の言葉に一瞬ひっかかりを覚えたものの、それ以上に冬弥が自分を庇って優しくフォローしてくれたことが嬉しくて、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。
その後、三人は無事に『白桃タピオカミルク』を購入し、コンビニの前で一緒に飲むことに。
「あー!冷たいこれ、超効くわー!」
知華がオヤジ顔負けの豪快さでストローを吸い上げ、那智も一口飲んで表情を緩める。
「うま。さすが期間限定なだけあるね」
「うん、すごく美味しい♪」
咲夏がはにかみながら白いストローを見つめていると、それを見ていた冬弥が、また嬉しそうに白い歯を見せた。
「ははっ、めっちゃ美味いよな!俺もこれ大好きで、怜にも飲めってずっと勧めてんだけど、こいつ頑なでさぁ」
「そうなの?」
咲夏が不思議そうに首を傾げると、那智が怜の方をチラリと見て、ニヤリと意地悪く口元を歪めた。
「怜のやつ、桃嫌いなんだよ」
「るせぇーよ、アレルギーだ」
額にピキッと血管を浮かべて言い返す怜。
口は悪いが、なんだかんだで仲の良さが滲み出ている二人の様子を見て、知華がクスクスと笑う。
「へぇ、なんか意外だけど、怜くん楽しそうだね!」
「ほんと」
咲夏も知華に同意して微笑んだ、その時だった。
冬弥が、持っていたタピオカのカップを少し揺らしながら、思い出したように咲夏を見つめてきた。
「あ、そういえばさ、昼休みの『桃サイダー』どうだった?」
ドクン、と不意に心臓が跳ね上がる。
まさか、あの慌ただしい昼休みの約束をちゃんと覚えていて、向こうから聞いてくれるなんて思ってもみなかった。
咲夏は照れ臭さを隠すように、とびきりの笑顔を冬弥に返した。
「あ、うん!あっさりしてて、すっごく美味しかったよ! 観月くん、おすすめしてくれてありがとう」
夕方のコンビニの前。ピンク色の白桃タピオカを手に交わした、二人だけの『桃色の答え合わせ』。
怜のトゲのある言葉の意味は少し気になったけれど、冬弥と過ごすこの放課後は、咲夏にとって炭酸が弾けるように愛おしく、特別な時間になっていくのだった。



