お揃いの桃サイダーで一際盛り上がったあの昼休みが、まるで遠い過去の出来事のように思えた。
午後になり、5時限目のホームルームで始まったのは、新学期の「委員会決め」だった。
(せめて……何か同じ委員会になれたら、もっと自然に話せるチャンスができるかも……っ)
そんな咲夏の淡い期待は、始まった瞬間に容赦なく打ち砕かれることになる。
クラスの圧倒的ムードメーカーである冬弥は、誰からも、どこからでも声がかかる存在だ。
自分なんて、彼を囲む大勢のクラスメイトのうちの一人に過ぎないのだと、咲夏は早くも現実を思い知らされかけていた。
「やっぱ男子の学級委員は冬弥だろー!」
「観月くんやってよー!」
「ここは冬弥しかいないっしょ!」
「マジか!俺、今期は部活も結構忙しいんだぞ?」
教室内が推薦の嵐で大盛り上がりする中、男子の学級委員は満場一致で冬弥に決まった。
ならば女子の学級委員になって、彼の隣を勝ち取るしかない。
咲夏は柄にもなく必死に手を挙げたが、今回は女子の立候補者が多すぎて、なぜか最終的に「じゃんけん」で決めることになってしまった。
(お願い……勝って、お願い……っ!)
心の中で神頼みをしながら挑んだものの、咲夏は無情にも最初の勝負で負けてしまった。
トボトボと自分の席に戻る咲夏を、知華が「咲夏……どんまい」と、いたわりの目で見つめてくる。
結局、女子の学級委員の座を射止めたのは、窓際の席に座る清楚系ふわふわ女子の小山内 美波さんだった。
「うわー、美波さんかよ!冬弥、お前ずりーぞ!」
「小山内さあん!俺と美化委員してくれぇ!」
「っていうか、これマジで美男美女でお似合いじゃね?」
クラスの男子たちが、やんややんやと囃し立てる。
「いや、お前らふざけすぎだからー。小山内さん困ってんじゃん」
冬弥はいつものように苦笑いしながら周りを宥めていた。
そんな彼に向かって、小山内さんは少し頬を染め、小動物のように上目遣いで微笑みかける。
「観月くん、一年間宜しくね!」
「あ、うん。こちらこそ宜しく」
教卓の前で、並んで頭を下げ合う二人。
その完璧に絵になる光景を見つめながら、咲夏の胸の奥は、本日何度目か分からない鋭い痛みでチクリと疼いた。
(……確かに、すっごくお似合いだよね)
はっきり言って、小山内さんは誰もが認める正統派の美少女だ。
小柄でふわふわとしていて、守ってあげたくなるような雰囲気が男子から人気なのもよく分かる。
それに比べて、今の自分はどうだろう。
頑張って一軍のギャルっぽく着飾ってはいるけれど、中身はただの臆病な陰キャのままだ。
冬弥の隣に似合うような清楚さなんて、微塵も持ち合わせていない。
(系統も全然違うし……本当に、恋愛の土台にすら立ってないんだな……)
賑やかなクラスの喧騒から、自分だけがポツンと切り離されてしまったかのような、ヒヤリとした孤独感が足元から這い上がってくる。
昼休みに自販機の前で交わした、あの甘くて優しいやりとり。
お揃いで買った、手元で少し温くなってしまった桃サイダー。
――あれは、全部私の見た夢だったんじゃないか。
夕方の教室の隅で、咲夏は自分の派手なミニスカートの裾をぎゅっと握りしめ、消えてしまいたいほどの切なさにただ耐えることしかできなかった。



