夏と冬が重なれば。


「観月くん……、びっくりした」

 驚きで硬直していた身体をようやく動かし、咲夏の口からポロリと素直な感想がこぼれ落ちた。

 至近距離で見る冬弥は、少し汗ばんだ額がうららかな太陽の光を浴びて、眩しいほどにきらきらと輝いている。

その圧倒的な爽やかさに、咲夏は思わず目が眩みそうになった。

(ダメダメ、ただでさえ変な見た目のサイダーで固まってたのに、これ以上不審な沈黙を作っちゃダメ!なんか会話を繋げないと……っ!)

「この、唐辛子サイダーが不思議で……。どんな味なんだろうって、ちょっと考えてたの」

 なんとか引きつらないように笑顔を作り、自販機のボタンを指さす。

 すると冬弥は、ボタンの文字を目に留めると、「あはは!」と声を上げて笑った。

「ああ、それね!こないだ怜達と罰ゲームで買って飲んだんだけどさ、マジで不味かったよ!一応サイダーなんだけど、後から喉がカァーッて熱くなってさ。喉痛めそうだったわ!安達さんには絶対おすすめしないかなー」

 楽しそうに語る冬弥を見つめながら、咲夏は胸の奥でひそかにガッツポーズを作っていた。

(すごい……! 私、今めちゃくちゃ自然に観月くんと会話できてるよね!?)

 地味な陰キャだったかつての自分からは、想像もつかない大進歩だ。

そんな自分の成長にも小さく感動しつつ、咲夏は言葉を返す。

「罰ゲーム?そーなんだ!やっぱり未知の味に挑戦するには、ちょっと勇気がいるよねっ」

「でしょ?だから俺は安全ルート」

 冬弥はそう言って、先ほど咲夏の頬に当てた冷たい缶ジュースを誇らしげに掲げてみせた。

「ちなみに、さっきの冷たいイタズラの中身はこれ!『桃サイダー』。これ、めっちゃ美味いよ。個人的に超おすすめ♪」

 冬弥の綺麗な指先に握られた、淡いピンク色の缶ジュース。

(……待って、私、今めちゃくちゃその桃サイダーになりたい……!)

 そんな突拍子もない妄想が頭をよぎり、咲夏はさらに顔が熱くなる。

 けれど、彼がそんなにお気に入りだと言うのなら、選ぶ答えは最初から決まっていた。

咲夏は少し照れくささを隠すように、はにかみながらボタンを見つめる。

「……じゃあ、私もその桃サイダーにしよっかな」

「お、いーじゃん!美味いからマジで飲め飲め!」

 冬弥が嬉しそうに白い歯をこぼした、そのときだった。

「おーーーい!冬弥!遅ぇーぞ!次お前の番ーーーっ!」 

中庭の向こう、体育館の入り口から部活の仲間たちの大きな声が響いてきた。

 冬弥は「あ、呼ばれちった」と、少しだけ名残惜しそうに眉を下げて息を吐く。

「あ、ごめんね!私のせいで引き留めちゃうところだった。気にせずすぐ行って!」

 咲夏は慌てて胸元でパタパタと手を振った。

 冬弥はタオルで首の汗をひと拭きすると、「わりぃ。じゃ、感想待ってるね」と言って、片手をひらひらと上げながら、長い足を動かして体育館へと戻っていった。

 嵐のように去っていった彼の背中を見送り、咲夏は大きく息を吸い込んでから、自販機の『桃サイダー』のボタンをそっと押した。

 ――ガシャン。

 静かな中庭に、缶ジュースが落ちる重鈍な音が響く。

 取り出し口から拾い上げたその缶は、手のひらを通じて、ひんやりとした心地よい冷たさを伝えてきた。

けれど、咲夏の顔はそれとは真逆で、沸騰しそうなほどに熱くなっている。

(……っていうか、お揃いのジュース、買っちゃったあああああ!?)

 冬弥と同じ、ピンク色の桃サイダー。

 間接的にお揃いを選んでしまったという事実に、今更ながら凄まじい羞恥心の波が押し寄せてくる。

(どうしよう、どうしよう……!知華!那智……っ!!) 

中身がピュアな陰キャの咲夏にとって、この甘すぎるハプニングは、もはや容量オーバーだった。

咲夏は赤くなった顔を膝に埋めるようにして、しばらくの間、自販機の前で小さくなってしゃがみ込んでしまうのだった。