顔にこもった熱を少しでも紛らわそうと、咲夏はパタパタと手で頬を仰ぎながら、自動販売機のある中庭へと歩を進めていた。
「もう……知華も那智も、意地悪なんだからっ」
ぷっと少しだけ唇を尖らせて呟く。
ふと、近くにある体育館から、キュッと床を擦るシューズの音や、リズミカルなドリブルの音が風に乗って聞こえてきた。
その音を耳にした瞬間、咲夏の脳裏に、高校一年のあの放課後の記憶が鮮烈に蘇る。
知華の付き添いで向かった体育館裏、至近距離で見つめ合って、そして――。
(……あのときの、頭ぽんは反則でしょ)
思い出すだけで、一度引きかけた赤みがまた顔にじわじわと戻ってくる。
(体育館、ちらっと覗いていこうかな……。あ、でもでも! そんなことしてたら、私が観月くん目当てでウロウロしてるってバレちゃうじゃん! ダメダメっ、自重しなきゃ!)
激しい脳内葛藤を繰り広げながら、ようやく自販機の前にたどり着いた。
咲夏は千円札を滑り込ませ、並んだドリンクのボタンを見つめる。
新商品のコーナーに目を留めると、そこにはおよそお目にかかったことのない奇抜な商品が鎮座していた。
「んー……?唐辛子サイダー……?何それ、どんな味よ……」
あまりに謎めいたチョイスに考え倦ねていると、ふと、自販機のガラス面に反射して映る自分の姿が目に入った。
丁寧にストレートなピンクベージュの髪に、こだわりのメイク。
どこからどう見ても、今をときめく一軍の白ギャルだ。
冬弥の隣に似合うような、おっとりとした清純派の清楚系女子からは、程遠い場所にいる。
(もう少し、清楚な感じにしたほうが良かったのかな……。この派手な見た目じゃ、系統も違うし、そもそも恋愛の土台にすら立ってないよね……)
急に自信がなくなって、胸がちくりと痛む。
そもそも、あの頭ぽんだってそうだ。
(人たらし……いやいや、あの爽やか王子に向かってその悪口は失礼すぎる。でも……もし、私だけじゃなくて、誰にでもあんなことしてたら……嫌、だな……)
気づけば、自販機の前で本日何度目か分からない、深いため息をついていた。
誰にでも優しい彼に振り回されて、一喜一憂している。
(私……自分で思ってるより、結構重症じゃん……)
ずんと落ち込み、物思いにふけっていた、そのときだった。
――ヒヤリ!右のほっぺたに、凍りつくような冷たい物体がピトッと押し当てられた。
「きゃっ!?」
驚きのあまり飛び上がり、情けない声をあげて隣を振り返る。
そこには、冷たい缶ココアを片手に持ち、いたずらが成功した子供のように悪びれもせず笑う冬弥の姿があった。
「あははっ!めちゃくちゃびっくりした?安達さん、自販機の前で超ーーー悩むじゃん、と思って!」
まばゆい太陽の光を背負って現れたのは、他でもない、観月冬弥だった。
部活の練習後なのか、首元に白いタオルをかけ、額にはほんのりと汗がにじんでいる。
咲夏は心臓がバクバクと変なリズムで暴れ出すのを感じながら、ただただ目を丸くして固まっていた。
(えええええっ!?み、観月くんんんっ!?なんでここに……っていうか、神出鬼没すぎない!?!?)
ギャルの鎧が完全にひび割れ、中身の陰キャが大パニックを起こす。
自販機が吐き出す微かな電子音だけが響く中、咲夏と冬弥の、二人きりの奇跡的なシュチュエーションに、頭がついていけなかった。



