夏と冬が重なれば。


新学期が始まってから少しの月日が流れた、とある午後の昼休み。

 2組の教室の窓際では、咲夏と知華、そして那智の三人が机をカツンと固めてお弁当を広げていた。

 向かい側に座る知華は、お弁当の箸を持ったまま、手元のスマホの画面を見て「きゃーっ♪」と嬉しそうに身悶えしている。

「そういえばさ、あれから少し経つけど、朔先輩とはどんな感じなの?」

 咲夏が身を乗り出し、興味津々といった様子で尋ねる。

あの体育館裏の大進撃から、二人の関係がどう発展しているのか気になって仕方がなかったのだ。

 知華はスマホを胸元に抱きしめ、だらしなく目元を下げてデレデレと笑った。

「ふふ♪よくぞ聞いてくれましたぁ!実はね、今度ふたりでデートする予定なのっ!当日は重度なゲームオタクだってバレないように、完璧な一般人を擬態しなきゃっ!」

「マジ?初デートとかすげーじゃん!これは一大決戦だな。いいか知華、完全に戦場だと思って気を引き締めて行けよ」

 隣でおにぎりを頬張っていた那智が、目をぎらつかせて拳を握る。

応援しているのは伝わるが、言葉の端々に隠しきれない元ヤンの物騒な名残が溢れ出ていた。

「もう、那智ったら!決闘じゃないんだから~」

 咲夏は盛大に苦笑いしつつも、すぐに知華の方を向いて顔を輝かせる。

「きゃー!でも初デートとか本当にすごいじゃん!知華やるぅ!」

「でしょでしょ~!あー、何着ていこう、今から緊張するっ!」 

自分のことのように大はしゃぎする咲夏を見て、那智がニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべた。

おにぎりを飲み込み、お茶のペットボトルを机に置く。

「そういう咲夏は、どーなんだよ? そんだけ人の恋バナで盛り上がれるんだから、好きな奴くらいいるんだろ?」

「えっ……!?」

 急すぎる飛び火に、咲夏の心臓がドクンと跳ねた。

 途端に脳裏をよぎるのは、あの放課後に頭をぽんぽんと撫でていった、冬弥の眩しすぎる笑顔。

 咲夏は一瞬にして顔を真っ赤に染め上げ、必死に手を振って否定した。

「い、いないよそんな人!全然いない、本当に!」

「ええー、絶対うそ!咲夏、焦るとすぐに顔に出るんだから~!」

 知華までがスマホを置いて、ニシシと意地悪くからかってくる。

「やっぱ、あの爽やか王子でしょ~?咲夏ちんはすぐ顔に出るんだからぁ〜」

「ちょっと、知華っ!声が大きいってば!そんなんじゃないからっ!」

 咲夏は慌てて立ち上がり、教室内を見渡した。
幸い、他の生徒たちは自分たちの会話に夢中でこちらを気にしていない。

だが、肝心の冬弥がいつ教室に戻ってくるかも分からず、気が気ではなかった。

「怪しいな。これは完全に黒だな」

 那智までが面白がって腕を組み、ニヤニヤと咲夏を観察してくる。

 中身がピュアな陰キャのままの咲夏にとって、親友二人からのダブルのツッコミはあまりに刺激が強すぎた。

これ以上この場所にいたら、心臓が爆発して本当のことを白状させられてしまう。

「もーっ!二人とも意地悪ばっかり言うから……ちょっとジュース買ってくるっ!」 

咲夏は赤くなった顔を両手で隠すようにして、逃げるように2組の教室を飛び出した。

 背後から知華と那智の楽しそうな笑い声が追いかけてくる。

廊下に出た咲夏は、熱を持った頬を冷ますようにパタパタと手で仰ぎながら、自動販売機のある憩いの広場へと足を早めるのだった。