何度目かの昼休み、いつものように体育館の片隅からバスケ部の練習を見つめていたときのことだった。
コート内から響くバッシュの摩擦音やボールのバウンド音に混じって、隣にいた知華が、突然きゅっと拳を握りしめて咲夏を振り返った。
「咲夏、私……!今日の放課後、朔先輩にアタックしてみる!!」
そのワンレンボブの髪を揺らしながら、知華の瞳にはこれまでにない強い意志の光が宿っていた。
「えーーーっ!? あ、アタックって、いきなり!?」
ギャラリーの喧騒を突き破るような爆弾発言に、咲夏は思わず声を裏返らせた。
「でも、まだちゃんと話すのも初めてなんでしょ?大丈夫かな……?望月先輩、いきなりで驚くんじゃない?」
外見が変わっても中身は地味で慎重なままの咲夏は、親友のあまりに急な突撃予告に、ハラハラと心配の波が押し寄せて止まらない。
しかし、オタク特有の強靭な行動力とギャルのポジティブさを併せ持つ知華の姿勢は、どこまでもまっすぐだった。
「そうだけどね、ずっと遠くの端っこで見てるだけより、先輩に私の存在をわかってもらうことが大事だから!当たって砕けろ、まずは声をかけてみる!目標は『友達から』ってことで!」
そう言って、知華は二カッと太陽のように屈託のない笑顔を弾けさせた。
陰キャ時代の自分なら、ただ遠くから見つめるだけで満足して、きっと諦めていただろう。
そんな「自分を変えたい」と思って努力してきたはずなのに、知華の持つ圧倒的な勢いと眩しいほどの勇気に、咲夏は心から感服し、同時に熱いものが胸の奥から込み上げてくるのを感じた。
(凄いなぁ、知華は……。本当に、前を向いて走ってるなぁ)
親友がここまで本気で一歩を踏み出そうとしているのだ。
ここで心配ばかりして止めるなんて、本当の友達じゃない。
「――うん!知華がせっかくここまで勇気を出したんだもん。じゃあ私も、全力で知華のこと応援する!」
咲夏は不安を吹き飛ばすように、満面の笑みを作って知華の背中をポンと押した。
その言葉を聞いた瞬間、知華は顔をこれ以上ないほど輝かせ、咲夏の体に思いきり飛び込んできた。
「ありがとうっ、咲夏ーーーっ!」
ギュッと強く抱きつかれ、お互いのまとうコロンの甘い香りがふわりと弾けた。



