碧くんの好きが溢れてる 〜私は貴方の体が目当てなんですけど〜

「ごめん。可愛すぎて抱きしめた」

照れた様子で私の体をゆっくりと立たせた。お互い向かい合わせで、下を向いて顔が赤くなった。すると保健室に先生が入ってきた。

「どうしたの? 2人とも」
「先生、俺のボールが彼女の顔面に当たって」
「顔が真っ赤ね。とりあえず冷やそうか」
「じゃあ先生よろしく」と言うと彼は出て行った。

保健室で、ちょっと休んで帰ることになった。帰りは他の生徒たちは、誰もいなかった。正門まで行くと彼が立っていた。その立ち姿は、スマホを見て下を向いていた。

長い足をクロスにして格好よかった。絵になるようなと思って見ていたら手を振った。誰に振っているのか、後ろを向いて確認したが、誰もいない。私のこと待っていた?

近づく彼をぼんやり立ち止まって見ていると、眩しい笑顔で走ってきた。

「遅かったから心配した」
「大丈夫ですよ。何もないです。もし気持ち悪くなった病院に行くようにと先生が言われましたけど、全然何にもないのでピンピンしています」
「よかった」
「もしかして、ずっと待っていたんですか?」
「うん、送って行く」
「いいです。いいです。悪いから」
「いや、俺が送りたいから」
「あ、ありがとうございます」

学校から駅まで歩いて電車に乗った。彼は満員でもないのに、私を守るみたいに閉まった扉に壁ドンした姿勢。これって、ご褒美。

上腕二頭筋をドキドキしながら見ている。変に思われないように、時々、彼の顔を見上げては、上腕二頭筋を見る。

触りたい。でも触ったら引くだろうな。変態に思われないために我慢しよう。帰ったら父の上腕二頭筋を触ろう。

私が降りる駅に到着した。ここで別々になるのかと、がっかりしたが、彼が一緒に降りてくる。

「え、最寄りの駅ここですか?」
「うん、偶然」
「嘘みたい」
「俺、2年の安藤碧(あんどう あお)君は?」
「私は、1年の宇佐野アリスです」
「宇佐野アリス、可愛い。不思議の国のアリスみたいだ。ウサギいるし」
「いえ、そのウサギじゃなくて、字が違います」
「そうだろうね。でもアリスだ。可愛い」
「いえ、可愛いだなんて…」

嬉しい可愛いと言ってくれる。不思議の国のアリスは母が好きで、私はいつもコスプレでアリスの服を着る。ディズニーでアリスになって行くのだ。

ふわふわワンピースに、ふりふりエプロンがお気に入りだ。今でも母が私の成長に合わせて、アリスの服を作ってくれるのだ。

母も父に負けないくらいの親バカぶりだ。アリスみたいに髪はストレート。これは母のため、アリスの服を着るためだ。

帰る道のり。何を話していいか分からない。アリス、私の名前のことが出てきたから、あのアリスのコスコスプレのこと、ディズニーにそれを着ていた話をした。

「俺もアリスとディズニーに行きたいなぁ。そのコスプレ着たアトラクション回ったら楽しいだろうな」
「そのコスプレはディズニーだからできるんだよ」
「そりゃそうだ」

駅からすぐなので、私は自分の家の前で止まった。

「送ってくれて、ありがとう」
「ここ、お前んち?」
「うん」
「ええっと、ええっと、サッカー部のマネージャーしないか?」
「うん?ああ、それね。凛にも誘われたけど無理。私どんくさいの。マネージャーはみんなのお世話しないといけないのに、自分のことで精一杯だから」
「そうか。毎日、会って距離を縮めたいと思ったのに…。突然だけど、俺の彼女になってよ。お前のお世話してやるよ」
「ええー!彼女?会ったばかりで、何も知らないのに」
「付き合ってから知ればいい。返事、待ってるからな。じゃあ、また明日」

彼は照れて言うと駆け出して、振り向いて手を振った。私も思わず手を振ってしまった。彼氏!

そう考えただけで、ドキドキしてきた。あの上腕二頭筋を思い出しては、両手で顔を覆う。恥ずかしいくらい、思い出すと顔が赤面する。気がつけば、あたりは暗くなっていたので、家に急いで入った。

「おかえり」
「ただいまママ」
「遅かったわね。何かあった?」

母の言葉に答えて学校であったことを話した。でも彼の事は言っていない。安藤碧の事は内緒にしてしまった。

「ボールに当たったの?」
「そう」
「アリスらしいわ」
「笑わないでよ。ママ」
「可愛いなって思ったの」
「それママだから思うんだよ。他の子だったら、どんくさいと思っているよ」
「そのどんくさいのが可愛いのよ。守ってあげたいって思うんだから」
「もうママの親バカバカ。私はいつまでも赤ちゃんじゃないわよ」

笑う母。身長148センチはコンプレックスで、胸の大きいのも気に入らない。人はギャップだと言って、そこがいいなんて勝手に思っているけど。なんだか身長と胸の大きさが、ちくはぐなようで嫌なのだ。