君と最後のメロディを

最優秀賞を取ってから、少しだけ毎日が変わった。

碧唯の作った曲を聴きたいと言う人が増えた。

知らない人から届くメッセージ。

「この曲に励まされました。」

「明日も頑張ろうと思えました。」

その一つ一つが、碧唯にとって大切な宝物だった。

「碧唯、またコメント見てる。」

放課後の音楽室。

翠が笑いながら言う。

「だって嬉しいんだもん。」

碧唯はスマホを見つめたまま笑った。

「私の曲で、誰かが笑ってくれるって……すごいことだよね。」

「うん。」

翠は迷わず答える。

「碧唯の夢、ちゃんと届いてる。」

その言葉に、碧唯は嬉しそうに笑った。

――でも。

最近、少しだけ変なことが増えていた。

階段を上るだけで、前より疲れる。

長時間ピアノを弾いていると、手に力が入りにくい時がある。

夜になると、理由もなく身体が重く感じる。

「……疲れてるだけ。」

碧唯はそう言い聞かせた。

夢に近づいている今。

翠が応援してくれている今。

心配をかけるわけにはいかなかった。



ある日の放課後。

音楽室で新しい曲を作っていた時。

「……っ。」

突然、息が苦しくなった。

碧唯は胸元を押さえる。

「大丈夫。」

誰もいない部屋で、小さくつぶやく。

少し休めば治る。

そう思っていた。

その時――

ガラッ。

「碧唯?」

翠が入ってきた。

「……翠。」

「どうした?」

翠はすぐに碧唯の顔を見る。

「顔色悪い。」

「大丈夫。」

いつもの言葉。

でも。

翠は少し悲しそうな顔をした。

「碧唯。」

「俺には、隠さなくていいよ。」

その優しい声に、碧唯は一瞬黙る。

「……。」

でも、すぐに笑った。

「本当に大丈夫。」

翠は何も言わなかった。

ただ、そっと碧唯の隣に座る。

「じゃあ。」

「大丈夫になるまで、俺がここにいる。」

碧唯は少し驚いて、翠を見る。

「……ずるい。」

「何が?」

「そういうところ。」

翠は笑った。

「碧唯が笑ってくれるなら、何でもする。」

その言葉に、碧唯の胸が少し痛んだ。

――ごめんね。

心の中でつぶやく。

まだ言えない。

怖いなんて。

不安だなんて。

だから今日も笑う。

大切な人の前では、いつもの自分でいたいから。

しかし数日後。

碧唯の元に、一通の通知が届く。

「検査の結果について、お話があります。」

その文字を見た瞬間。

碧唯の指が、静かに震えた。