君と最後のメロディを

松宮さん、いますか?」

昼休み。

教室の前に、知らない生徒たちが集まっていた。

「え……私?」

碧唯が不思議そうに近づくと、後輩の女の子が緊張した顔で頭を下げた。

「あの……昨日の曲、聴きました。」

「え?」

「すごく感動して……。私、落ち込んでたんですけど、聴いたらもう少し頑張ろうって思えました。」

その言葉に、碧唯は目を丸くする。

「……ありがとう。」

たった一言。

でも、その言葉が何より嬉しかった。

少し離れた場所で見ていた翠は、嬉しそうに笑っていた。



放課後。

いつもの音楽室。

碧唯はピアノの前に座っていた。

でも、今日はいつもと違う。

「なんか、怖い。」

「怖い?」

翠が首をかしげる。

「うん。」

碧唯は鍵盤を見つめる。

「今まで曲を作るのは、自分のためだった。」

「でも今は……誰かが聴いてくれてる。」

「変な曲は作れないなって思って。」

翠は少し黙ったあと、優しく笑った。

「碧唯。」

「なに?」

「忘れた?」

翠は碧唯のノートを指差す。

そこには、昔から書いている言葉があった。

『誰かの心を救える曲を作る』

「碧唯は最初から、誰かのために曲を作ってた。」

「だから大丈夫。」

「俺はずっと、一番近くで聴いてるから。」

碧唯は少し笑う。

「翠って、本当に私のこと信じすぎ。」

「うん。」

「即答……。」

「だって、碧唯だから。」

その言葉に、碧唯は顔を赤くする。

「……そういうところ、ずるい。」

「何が?」

「なんでもない。」

翠は笑った。



その夜。

碧唯の曲はさらに広がっていた。

動画のコメントには、たくさんの言葉が並んでいた。

『救われました』
『明日も頑張れそうです』
『この曲、大切にします』

碧唯はスマホを見つめながら、小さく笑った。

「夢……叶うかな。」

その隣で、翠が言う。

「叶うよ。」

「絶対。」

その声は、迷いがなかった。

しかし――

その頃、碧唯の身体には小さな変化が起きていた。

少しの息切れ。

少しの疲れ。

本人も気づかないほどの、小さな違和感。

それはまだ、二人の未来を変えるものだとは誰も知らなかった。