君と最後のメロディを

翠は碧唯の手を強く握り続けた。

「碧唯……。」

「お願いだから。」

「目を閉じないで。」

碧唯は苦しそうに呼吸をしながらも、翠を見つめた。

その瞳は、涙で揺れていた。

「……翠。」

かすかな声。

「ありがとう。」

「生まれてきて……。」

「翠に会えて……。」

「本当に、幸せだった。」

翠は何度も首を振る。

「そんなこと言うな。」

「まだ言いたいこといっぱいある。」

「まだ一緒に笑いたい。」

「まだ一緒に生きたいんだ。」

「だから……。」

「お願いだから……。」

涙が止まらなかった。

碧唯は最後の力を振り絞るように、翠の手をほんの少しだけ握り返した。

「……大好き。」

その一言は、とても小さかった。

けれど、翠にははっきりと届いた。

「俺も!」

「俺も大好きだ!」

「だから帰ってきて!」

「碧唯!」

碧唯は穏やかに微笑んだ。

まるで「大丈夫だよ」と伝えるような、優しい笑顔だった。

窓から冬の柔らかな光が差し込む。

静かな風がカーテンを揺らした。

碧唯はゆっくりと目を閉じる。

握っていた翠の手から、少しずつ力が抜けていく。

病室は静かだった。

翠は震えながら何度も名前を呼ぶ。

「碧唯……?」

「碧唯。」

「返事して。」

「お願いだから……。」

返事はなかった。

翠は碧唯の手を胸に抱きしめ、声をあげて泣いた。

「嫌だよ……。」

「こんなの嫌だ……!」

「もっと一緒にいたかった!」

「もっと曲を作りたかった!」

「もっと『おはよう』って言いたかった!」

「碧唯……!」

病室には、翠の涙声だけが響いた。

家族も静かに碧唯のそばへ集まり、その手をそっと包む。

誰も言葉を発せなかった。

ただ、碧唯が残してくれた優しさと音楽を胸に、それぞれが静かに別れを告げた。

窓の外では、雪がやみ、雲の切れ間から青空がのぞいていた。

まるで碧唯が最後に作った曲が、空へ優しく響いていくようだった。

そして翠は、涙を流しながら心の中で誓う。

「碧唯。」

「君の音楽は、これからもずっと生き続ける。」

「君が遺したメロディを、俺が未来へ届けるから。」

その約束は、二人の物語の終わりではなく、新しい始まりになった。