君と最後のメロディを

病室のドアを開けた瞬間。

翠の足が止まった。

ベッドの上には、静かに眠る碧唯。

機械の音だけが、静かな病室に響いていた。

「……碧唯。」

震える声で名前を呼ぶ。

返事はない。

翠は駆け寄り、震える手で碧唯の手を握った。

冷たくなり始めたその手を、両手で必死に包む。

「碧唯……。」

「来たよ。」

「約束したから。」

「ちゃんと来たから……。」

翠の声は震えていた。

目からは、止めどなく涙がこぼれる。

「起きてよ……。」

「昨日、『また明日』って言ったじゃん。」

「俺、明日も来るって言ったじゃん……。」

必死に話しかける。

まるで、声が届けば目を覚ましてくれると信じるように。

「まだ、一緒に曲作るんだろ?」

「『生きたい』、みんなに届けるんだろ?」

「作曲家になって、もっとたくさんの歌を作るんだろ?」

「だから……。」

翠は碧唯の手を強く握りしめた。

「行かないでよ……。」

「お願いだから。」

「俺を一人にしないで。」

涙が、碧唯の手に落ちる。

「俺……。」

「碧唯がいない世界なんて嫌だ。」

「朝、『おはよう』って言う相手も。」

「学校帰りに会いに来る相手も。」

「『翠』って笑って呼んでくれる人も。」

「全部、碧唯じゃなきゃ嫌なんだよ……!」

病室に、翠の泣き声が響く。

「だからお願い……。」

「まだ死なないで。」

「俺の手になるって約束したのは碧唯じゃない。」

「俺が碧唯の手になるって約束したんだ。」

「だから。」

「まだ守らせてよ……。」

「もっと一緒にいたい。」

「ひまわり畑だって、また行こうって言ったじゃん。」

「海だって。」

「新しい曲だって。」

「まだ何も終わってないじゃん……!」

翠は碧唯の手を握ったまま、声を上げて泣いた。

その時。

碧唯の指先が、ほんの少しだけ動く。

「……みどり。」

かすれた、小さな声。

翠はすぐに顔を上げた。

「碧唯!」

碧唯はゆっくりと目を開ける。

苦しそうに呼吸をしながら、それでも優しく微笑んだ。

「……泣かないで。」

「無理だよ……!」

翠は首を何度も振る。

「泣かないなんて無理だ!」

「俺は碧唯が好きなんだ!」

「世界で一番、大好きなんだ!」

「だから……。」

「お願いだから。」

「置いていかないで……。」

「俺を一人にしないでよ……。」

涙でぐしゃぐしゃになった翠の顔を見て、碧唯も静かに涙を流した。

二人の手は、最後まで強く、強く結ばれたままだった。