君と最後のメロディを

それから数週間。

季節は冬へと変わっていた。

碧唯はほとんどを病室で過ごすようになり、体調のいい日だけ少しだけ起き上がることができた。

しかし――。

ある日を境に、その時間さえ短くなっていった。



朝。

「おはよう。」

翠が病室へ入る。

「……おはよう。」

返ってきた声は、とても小さかった。

「昨日、ちゃんと眠れた?」

碧唯は少しだけ首を横に振る。

「苦しくて……何度も起きちゃった。」

呼吸は以前より浅く、話すだけでも息が上がる。

食事も、ほとんど食べられなくなっていた。

「今日は無理して話さなくていい。」

翠はそう言って、水を手渡した。

碧唯は微笑もうとしたが、その笑顔も力なく消えてしまう。



午後。

診察室。

担当医は検査結果を静かに見つめていた。

「松宮さん。」

「……はい。」

「病気は、この数週間でさらに進行しています。」

碧唯は静かに耳を傾ける。

「これからは、体への負担をできるだけ減らす治療が中心になります。」

「無理に動いたり、長時間歌ったりすることは難しくなるでしょう。」

診察室は静まり返った。

碧唯は小さくうなずく。

「……分かりました。」



病室へ戻ると、翠が待っていた。

「先生、なんて?」

碧唯は少し黙ってから答えた。

「前より……悪くなってるって。」

翠の表情が曇る。

「でも、大丈夫。」

碧唯はそう言おうとした。

しかし、その途中で咳き込み、苦しそうに息を整える。

翠は背中をさすりながら、何も言えなかった。



その日の夕方。

担当医は碧唯と翠、そして家族に静かに説明をした。

「私たちは最後まで治療を続けます。」

「ですが、病気は確実に進行しています。」

「これから先は、一日一日の体調の変化が今まで以上に大きくなる可能性があります。」

部屋には重い空気が流れた。

翠は拳を強く握りしめる。

碧唯は窓の外の夕焼けを見つめたまま、小さくつぶやいた。

「……時間が、近づいてるんだね。」

誰も答えられなかった。

沈黙だけが病室を包む。

しばらくして、翠は碧唯の隣に座り、そっと手を握る。

「碧唯。」

「まだ、一緒にいたい。」

「まだ、笑ってほしい。」

碧唯は涙を浮かべながら微笑んだ。

「私も。」

「まだ、生きたい。」

窓の外では、静かに雪が降り始めていた。

その白い景色を見つめながら、二人は残された一日一日を、これまで以上に大切に過ごそうと心に決めるのだった。