君と最後のメロディを

生きたい。」

その一言から始まった新しい曲。

翠がペンを持ち。

碧唯がメロディを口ずさむ。

二人で少しずつ、一音ずつ紡いでいった。

「翠。」

「ここの歌詞ね。」

「『明日が来るなら、それだけで幸せ』にしたい。」

「いい歌詞だ。」

翠は優しく笑いながら書き留める。

楽譜は少しずつ埋まっていく。

完成まで、あと少し。

あと少しだった。

⸻

数日後。

病室。

碧唯は窓の外を眺めていた。

「今日は調子どう?」

翠が病室へ入ってくる。

「今日は少しだけいいかも。」

そう笑った碧唯だったが、その笑顔は弱々しかった。

「無理しなくていい。」

「今日は休もう。」

「ううん。」

碧唯は首を横に振る。

「完成させたい。」

「この曲だけは……。」

翠はノートを開いた。

「じゃあ、少しだけ。」

「うん。」

碧唯は静かに歌い始める。

しかし、途中で息が続かなくなった。

「……っ。」

苦しそうに胸を押さえる。

「碧唯!」

翠が立ち上がる。

「大丈夫……。」

そう言おうとした瞬間。

急に強い咳き込みが続いた。

息が苦しくなり、言葉が出ない。

病室にアラームが鳴り響く。

看護師たちが駆け込んできた。

「松宮さん!」

「翠くん、少し外で待っていてください!」

「でも!」

「お願いします!」

病室のドアが閉まる。

翠は何もできず、廊下に立ち尽くした。

握りしめたノートが、小さく震えていた。

最後のページ。

まだ白いまま。

あと数行。

あと数小節。

それだけで完成するはずだった。

翠はノートを胸に抱きしめる。

「約束しただろ……。」

「一緒に完成させるって。」

病室の向こうから聞こえる慌ただしい足音。

翠はただ祈ることしかできなかった。

どうか。

もう一度だけ。

碧唯が笑って、「続きを作ろう」と言ってくれますように。

未完成のメロディは、静かな病室で止まったままだった。