君と最後のメロディを

その日の夜。

病室。

窓の外には、静かな雨が降っていた。

碧唯はベッドに横になりながら、ゆっくりと息をしていた。

「……はぁ……。」

以前より少しだけ呼吸が苦しい。

深呼吸をしようとしても、思うように息が吸えない。

「苦しい……。」

ナースコールを押そうと右手を伸ばす。

しかし、思うように腕が上がらない。

「……っ。」

その時、病室のドアが開いた。

「碧唯!」

面会時間ぎりぎりに駆けつけた翠だった。

「翠……。」

「顔色悪い。」

翠はすぐに看護師を呼ぶ。

看護師と医師が駆けつけ、碧唯の状態を確認する。

酸素マスクが用意される。

医師は優しく声をかけた。

「松宮さん、少し呼吸を助けましょう。」

碧唯は静かにうなずいた。

酸素マスクをつけると、少しずつ呼吸が落ち着いていく。

翠はベッドの横で、その様子を見守っていた。

「……ごめんね。」

マスク越しに小さな声が聞こえた。

翠は首を横に振る。

「謝ることなんてない。」

「でも……。」

「また心配かけちゃった。」

翠はそっと碧唯の髪をなでる。

「何回でも心配する。」

「それが俺だから。」

碧唯は目を細めて笑った。

「……ありがとう。」



翌朝。

医師から説明を受ける。

「昨夜は呼吸状態が一時的に悪くなりました。」

「今後も同じような症状が出る可能性があります。」

翠は真剣な表情で話を聞いていた。

「それでも。」

医師は続ける。

「松宮さん自身が前向きに治療へ取り組んでいることは、とても大きな力になります。」



午後。

病室には静かな日差しが差し込んでいた。

翠は新しいノートを開く。

「今日は作る?」

碧唯は少し考えてから、小さくうなずいた。

「うん。」

「作りたい。」

「どんな曲?」

碧唯は窓の外を見つめる。

青空の向こうを飛んでいく鳥。

風に揺れる木々。

「……生きたい。」

「え?」

「『生きたい』っていう曲。」

翠は何も言わず、ペンを握った。

「まだ。」

「やりたいことがある。」

「まだ。」

「会いたい人がいる。」

「まだ。」

「届けたい歌がある。」

「だから。」

碧唯は翠を見つめ、優しく笑った。

「私は、生きたい。」

その言葉を聞いた翠は、涙をこらえながら笑った。

「その曲。」

「絶対完成させよう。」

「うん。」

「今度も一緒に。」

病室には、鉛筆が楽譜をなぞる音が響く。

病気は少しずつ碧唯の体を弱らせていた。

それでも。

夢はまだ終わらない。

希望もまだ消えない。

二人は信じていた。