君と最後のメロディを

デビューから一か月。

碧唯は病院で定期検査を受けていた。

診察室。

医師は静かに検査結果を見つめている。

その表情を見た瞬間、碧唯は何かを察した。

「先生……。」

医師はゆっくり息をついた。

「松宮さん。」

「病気が、さらに進行しています。」

部屋が静まり返る。

「最近、息苦しさや強い疲れはありませんでしたか?」

「……ありました。」

「夜、苦しくて眠れない日もあります。」

医師は静かにうなずいた。

「これからは入院を中心に治療を進めましょう。」

「そして……。」

その一言が、なかなか続かない。

「今後は、呼吸する力も少しずつ弱くなる可能性があります。」

碧唯は目を閉じた。

涙は出なかった。

あまりにも現実が重すぎた。



病室を出ても、碧唯は何も話さなかった。

廊下の椅子に座り、窓の外を見つめる。

そこへ、飲み物を買いに行っていた翠が戻ってきた。

「碧唯。」

「終わった?」

碧唯は小さく笑った。

「……うん。」

その笑顔を見た瞬間。

翠は分かった。

「先生……何て言った?」

しばらく沈黙が続く。

やがて碧唯は、小さな声で言った。

「病気、進んでた。」

翠は息をのむ。

「これから……。」

「入院が多くなるって。」

「呼吸も、少しずつ弱くなるかもしれないって。」

翠は言葉を失った。

目の前が真っ白になる。

それでも必死に涙をこらえた。

碧唯の前では泣きたくなかった。

「……そっか。」

それしか言えなかった。



病院の屋上。

夕日が街を赤く染めていた。

「ねぇ、翠。」

「ん?」

「私ね。」

「怖い。」

「眠って、そのまま目が覚めなかったらどうしようって考えちゃう。」

「曲が作れなくなるより。」

「みんなに会えなくなる方が怖い。」

「翠と話せなくなる方が、もっと怖い。」

その言葉を聞いた瞬間。

翠はしゃがみ込み、碧唯の手をぎゅっと握った。

「そんなこと言うな。」

声が震えていた。

「まだ、一緒にやりたいことがたくさんある。」

「新しい曲も。」

「旅行も。」

「海も見に行くって約束した。」

「ひまわり畑だって。」

「全部、まだこれからだ。」

碧唯は静かに涙を流す。

「……うん。」

「だから。」

翠は笑おうとした。

「約束。」

「また笑おう。」

「また曲を作ろう。」

「また『ありがとう』って言い合おう。」

碧唯は何度もうなずいた。

「約束。」

二人は夕焼けの空を見上げた。

明日が来ることは当たり前じゃない。

だからこそ。

今日という一日を、大切に生きようと心に決めた。

しかし、その夜。

碧唯の体には、さらに新たな異変が静かに現れ始めていた――。