君と最後のメロディを

グランプリ受賞から三か月。

『君と過ごす時間』は、動画サイトやSNSで多くの人に聴かれるようになっていた。

「碧唯さんの曲に救われました。」

「病気と闘う勇気をもらいました。」

「涙が止まりませんでした。」

そんなメッセージが、毎日のように届く。

碧唯はスマホを見つめながら、小さく笑った。

「……届いたんだ。」

翠も隣で微笑む。

「言っただろ。」

「碧唯の曲は、人の心に届くって。」



数日後。

レコード会社との打ち合わせ。

担当者が一冊の資料を机に置いた。

「松宮さん。」

「正式に、作曲家として契約しませんか?」

碧唯は驚いて息をのむ。

「本当……ですか?」

「はい。」

「体調を最優先にしながら、一緒に活動していきたいと考えています。」

「締め切りも柔軟に対応します。」

「あなたにしか作れない曲があります。」

碧唯の目に涙が浮かぶ。

「ありがとうございます……。」

夢だった。

ずっと追いかけてきた夢。

その夢が、ようやく現実になった。



帰り道。

夕焼けに染まる川沿い。

翠が車椅子を押しながら歩いていた。

「作曲家。」

「おめでとう。」

碧唯は少し照れながら笑う。

「まだ実感ない。」

「でも。」

「夢って叶うんだね。」

翠は足を止めた。

車椅子の前へ回る。

「碧唯。」

「ん?」

「俺からも、お祝い。」

そう言って、小さな箱を差し出した。

「え?」

開けると、中には銀色のペンダント。

音符の形をした、小さなペンダントだった。

「これ……。」

「作曲家デビュー祝い。」

「ずっと頑張ってきた証。」

碧唯は震える手でペンダントを握る。

「ありがとう……。」

「一生、大切にする。」

翠は優しく微笑んだ。

「似合ってる。」

その言葉だけで、碧唯はまた泣きそうになる。



その夜。

碧唯は新しいノートを開いた。

一ページ目にタイトルを書く。

『ありがとう』

「次は。」

「この曲を作ろう。」

翠は笑ってペンを持つ。

「はい、先生。」

碧唯はゆっくりと歌い始める。

以前より声は少し弱くなっていた。

手も、自分ではもうほとんど楽譜を書けない。

それでも。

夢は叶った。

だけど——。

病気は、夢が叶うのを待ってくれなかった。

病室へ向かう定期検査の日は、もうすぐそこまで迫っていた。

そしてその検査が、二人にとって最も過酷な現実を告げることになるとは——

まだ誰も知らなかった。