君と最後のメロディを

スタッフに案内され、碧唯と翠は審査室へ入った。

部屋には五人の審査員が座っていた。

誰もが優しい表情で碧唯を見つめている。

「松宮さん。」

一人の審査員が静かに口を開いた。

「素晴らしい演奏でした。」

「ありがとうございます。」

碧唯は深く頭を下げる。

「特に『君と過ごす時間』は、多くの審査員の心を動かしました。」

「歌詞もメロディも、とても温かかったです。」

碧唯は少し照れながら笑った。

「ありがとうございます。」

すると、別の審査員が尋ねた。

「この曲は、どんな思いで作られたのですか?」

部屋が静かになる。

碧唯は少しだけ翠を見た。

翠は優しくうなずく。

「……この曲は。」

「私が病気になってから作った曲です。」

審査員たちは静かに耳を傾ける。

「最初は、夢を諦めようと思いました。」

「手も動かなくなって。」

「足も思うように動かなくなって。」

「もう作曲家にはなれないって。」

「そう思っていました。」

碧唯は翠の方を見て微笑む。

「でも。」

「隣に、この人がいました。」

「『俺が碧唯の手になる。』」

「そう言って、私の代わりに楽譜を書いてくれました。」

「『俺が足になる。』」

「そう言って、どこへでも連れて行ってくれました。」

「だから、この曲は。」

「私一人の曲じゃありません。」

「私たち二人の曲です。」

話し終えた時には、碧唯の目に涙が浮かんでいた。

審査員の一人も、そっとハンカチで目元を押さえる。

「……ありがとうございます。」

「その言葉だけで、この曲の意味が伝わりました。」

部屋は温かい空気に包まれた。



夕方。

結果発表。

会場には緊張した空気が流れている。

司会者が封筒を開く。

「今年のグランプリは——」

一瞬、時間が止まる。

「松宮碧唯さん。」

その瞬間。

会場が大きな拍手に包まれた。

「……え。」

碧唯は信じられず、目を見開く。

「碧唯!」

翠が思わず笑顔になる。

「やった……!」

碧唯の目から涙があふれた。

ステージへ向かう車椅子を、翠がゆっくり押す。

トロフィーを受け取った碧唯は、マイクの前に立った。

「ありがとうございます。」

少し震える声。

「一人だったら、ここには来られませんでした。」

「支えてくれた家族。」

「先生。」

「友達。」

そして。

碧唯は客席の一番前にいる翠を見つめた。

「誰よりも私を信じてくれた翠。」

「ありがとう。」

翠は目に涙を浮かべながら、大きく拍手を送る。

その日。

松宮碧唯の名前は、多くの人に知られることになった。

そして——

二人で追い続けた夢は、ようやく最初の一歩を踏み出したのだった。