君と最後のメロディを

『君と過ごす時間』を応募してから、一か月。

碧唯と翠は、毎日そわそわしていた。

「まだかな。」

「まだだな。」

スマホを確認しては、ため息をつく。

「落ち着かない……。」

「俺も。」

そんな日々が続いた。

⸻

ある日の午後。

病院のラウンジ。

翠が宿題をしていると、碧唯のスマホが震えた。

「メール……?」

件名を見た瞬間、碧唯の手が止まる。

『オーディション結果のお知らせ』

「翠……。」

「来た。」

翠も息をのむ。

「開いて。」

「無理……。」

「怖い。」

翠は優しく笑った。

「一緒に見よう。」

碧唯は小さくうなずく。

震える指で画面を開いた。

ゆっくりと読み進める。

そして――

「……え。」

目を見開いたまま動かない。

「碧唯?」

翠が画面をのぞく。

そこには、こう書かれていた。

『松宮碧唯様』

このたびはご応募ありがとうございました。

厳正なる審査の結果、あなたを最終審査へご案内いたします。

あなたの楽曲『君と過ごす時間』は、審査員全員が高く評価しました。

「最終……審査……?」

碧唯は信じられないようにつぶやく。

「やった……!」

翠は思わず立ち上がり、碧唯の両手をそっと握った。

「碧唯!」

「夢に近づいた!」

碧唯の目から、大粒の涙があふれる。

「私……。」

「まだ夢を見てもいいのかな。」

翠は力強くうなずいた。

「もちろん。」

「ここまで頑張ってきたのは碧唯だ。」

「だから胸を張れ。」

その時、碧唯はメールの続きを読んだ。

笑顔が少し曇る。

「どうした?」

「最終審査……。」

「東京での実技審査だって。」

「私は……。」

車椅子で長時間の移動。

体調への負担。

不安が一気に押し寄せる。

翠は少し考えてから、笑った。

「行こう。」

「え?」

「どんな方法でもいい。」

「俺が一緒に行く。」

「荷物も持つ。」

「車椅子も押す。」

「道に迷ったら調べる。」

「だから、一人で悩むな。」

碧唯は涙をぬぐって笑った。

「ほんとに……。」

「翠って、私のヒーローだね。」

翠は照れくさそうに頭をかく。

「ヒーローじゃない。」

「彼氏。」

「彼氏として、最後まで隣にいる。」

窓の外では夕日が街を優しく照らしていた。

夢まで、あと一歩。

二人はその光を見つめながら、新しい未来へ向かって歩き始めた。