君と最後のメロディを

退院してから数週間。

碧唯は自宅で療養を続けていた。

学校へ行けるのは週に一度だけ。

歩くことも、手を動かすことも以前より難しくなっていた。

それでも。

「翠。」

「今日も曲、作ろ。」

「もちろん。」

翠はノートを開き、ペンを握る。

もう何も言わなくても分かる。

碧唯が少し歌えば、翠はその音を五線譜へ写していく。

「はい、ここまで。」

「ありがとう。」

「今日は頑張りすぎ。」

「えー。」

「先生が休憩って言ったら休憩。」

「翠先生、厳しい。」

二人は笑い合った。

そんな時だった。

テレビからニュースが流れる。

「若手アーティスト発掘オーディションの募集が始まりました。」

碧唯は画面を見つめる。

「……翠。」

「ん?」

「出たい。」

翠は少し驚いた。

「でも。」

「私、会場には行けないかもしれない。」

「歌えるかも分からない。」

「それでも。」

碧唯は真っすぐ前を見た。

「この曲を届けたい。」

「一人でもいい。」

「誰かの心に届くなら。」

翠はゆっくりとうなずく。

「じゃあ応募しよう。」

「え?」

「できない理由を探すより。」

「できる方法を探そう。」

「動画で応募できるかもしれない。」

「病院からでも歌えるかもしれない。」

「俺も一緒に考える。」

碧唯の目に涙が浮かぶ。

「……ありがとう。」

「俺たちの夢だから。」

翠は笑った。

「最後まで一緒に走る。」

その夜。

二人は完成した『君と過ごす時間』を録音した。

ピアノは翠。

歌は碧唯。

そして、作曲は二人で完成させた一曲。

録音が終わると、碧唯は静かに空を見上げた。

「届くかな。」

「届く。」

翠は迷わず答えた。

「だって、この曲には碧唯の人生が詰まってる。」

「だからきっと、誰かの心に届く。」

碧唯は微笑んだ。

「うん。」

「信じてみる。」

その曲は、小さな部屋から世界へ向けて送り出された。

まだ誰も知らない。

この一曲が、多くの人の心を動かすことになることを。

そして、碧唯と翠の人生を大きく変える一歩になることを。