君と最後のメロディを

「ねぇ、碧唯。」

一時間目と二時間目の間の休み時間。

翠は碧唯の机に肘をつき、にこにこしながら顔をのぞき込んだ。

「今日、新しい曲聴かせて。」

「まだ完成してない。」

「途中でもいい!」

「嫌。」

「えぇー。」

翠はわざと肩を落とす。

「俺、碧唯の一番のファンなのに。」

「だからこそ完成してから聴いてほしいの。」

「じゃあ待つ。」

「そんなに楽しみ?」

「うん。」

迷いなく答える翠に、碧唯は少し照れたように笑った。

「期待しすぎだよ。」

「期待じゃない。」

翠は優しく笑う。

「碧唯が作る曲は、全部好きだから。」

その言葉に、碧唯は何も返せなかった。

小さい頃からそうだった。

初めてピアノで一曲弾けるようになった日も。

初めて歌詞を書いた日も。

初めてギターを弾いた日も。

いつも隣には翠がいた。

「碧唯は絶対、夢を叶える。」

そう言って応援してくれるのも、翠だった。

⸻

放課後。

碧唯は一人、音楽室へ向かった。

窓から差し込む夕日。

誰もいない静かな教室。

ピアノの前に座ると、ゆっくり鍵盤に指を置く。

優しいメロディが流れ始めた。

何度も止まっては弾き直し、ノートに歌詞を書き足していく。

「……ここは、もう少し優しい音かな。」

夢中になっていると――

ガラッ。

「やっぱりここにいた。」

振り返ると、翠が紙パックのいちごミルクを二本持って立っていた。

「また見つかった。」

「碧唯の居場所なんて、すぐ分かる。」

翠は一本を差し出す。

「はい。」

「ありがとう。」

二人はピアノの前に並んで座った。

「ねぇ。」

翠が静かに言う。

「一曲だけでも聴かせて?」

碧唯は少し考えてから、小さくうなずいた。

「笑わない?」

「笑うわけない。」

碧唯は深呼吸をして、鍵盤に指を置く。

音楽室いっぱいに、まだ名前のないメロディが流れた。

弾き終えると、部屋は静まり返る。

「……どう?」

少し不安そうに尋ねる碧唯。

翠は何も言わなかった。

ただ、目を少し潤ませていた。

「え!?な、なんで泣いてるの?」

「……だって。」

翠は照れくさそうに笑う。

「碧唯の曲、今日も最高だった。」

その一言だけで十分だった。

碧唯は心から嬉しそうに笑う。

「ありがとう。」

翠はその笑顔を見ながら、心の中でそっと思う。

(この笑顔も、この曲も。)

(いつか、世界中の人に届きますように。)

夕日に染まる音楽室には、二人だけの優しい時間が流れていた。