君と最後のメロディを

翌日。

碧唯は病院へ運ばれ、追加の検査を受けていた。

病室の外。

翠は落ち着かない様子で何度も廊下を行ったり来たりしていた。

「岬くん。」

担当医が診察室から出てくる。

翠はすぐに立ち上がった。

「先生……碧唯は?」

医師は静かに口を開く。

「病気が進行しています。」

「手だけではなく、足にも症状が出始めています。」

翠は言葉を失った。

「今後は、車椅子での生活を考える必要があるかもしれません。」

その一言が胸に突き刺さる。

「ただ……。」

医師は続ける。

「治療を続けることで進行を遅らせられる可能性はあります。」

「ですが、無理は禁物です。」

翠は深く頭を下げた。

「……お願いします。」

「碧唯を助けてください。」

医師は静かにうなずいた。



病室。

窓から夕日が差し込んでいる。

碧唯はベッドの上でぼんやり外を眺めていた。

ドアが開く。

「翠。」

「お待たせ。」

翠は笑おうとした。

でも、その笑顔は少しぎこちなかった。

「先生と話した?」

「……うん。」

「そっか。」

碧唯はすべてを察したように小さく笑う。

「もう歩けなくなるかもしれないって言われた?」

翠は何も言えない。

「図星だ。」

碧唯は苦笑した。

「ねぇ、翠。」

「私ね。」

「怖いんだ。」

「音楽だけじゃなくて。」

「歩くことも。」

「学校へ行くことも。」

「普通に笑うことも。」

「全部失っていく気がする。」

涙が静かに頬を流れた。

「私……。」

「夢、叶えられるのかな。」

翠はベッドの横にしゃがみ込む。

そして、碧唯の手を握った。

「聞いて。」

「夢は。」

「立ってる人しか叶えられないものじゃない。」

碧唯はゆっくり翠を見る。

「歩けなくても。」

「手が思うように動かなくても。」

「碧唯は碧唯だ。」

「曲は作れる。」

「俺がいる。」

「俺が手になる。」

「俺が足になる。」

「どこへだって連れて行く。」

「レコード会社にも。」

「ライブ会場にも。」

「もし車椅子になっても。」

「俺が押す。」

「だから。」

翠は涙をこらえながら微笑んだ。

「夢を終わらせるな。」

「俺に、碧唯の夢を最後まで応援させて。」

碧唯は声を上げて泣いた。

「……翠。」

「私。」

「こんな彼氏、世界一だよ。」

翠は照れくさそうに笑う。

「知ってる。」

「自分でもそう思う。」

「ふふっ……。」

泣きながら笑う碧唯。

その笑顔を見て、翠もようやく笑った。



その日の夜。

病室の机には、一冊のノートが置かれていた。

翠が開く。

一番最初のページには、碧唯の字でこう書かれていた。

『私が曲を作れなくなった日も、このノートだけは閉じないで。』

『続きを、一緒に書こう。』

翠はノートを胸に抱きしめた。

「約束する。」

「このノートの最後のページまで。」

「俺はずっと隣にいる。」

病室には静かな夜が訪れる。

それでも二人の夢は、まだ終わっていなかった。