君と最後のメロディを

レコード会社との面談まで、あと一週間。

碧唯は家でも、学校でも、曲のことばかり考えていた。

「翠。」

「ここ、歌詞どう思う?」

「いい。」

「でも最後の一行。」

「碧唯らしく笑える言葉がいい。」

「……そっか。」

碧唯は小さく笑い、翠の言葉をメモしていく。

二人で作る時間が、何より幸せだった。



数日後。

朝。

碧唯はベッドから起き上がろうとした。

「……あれ?」

身体が重い。

いつも以上に力が入らない。

「よいしょ……。」

足を床につける。

その瞬間。

ガクッ——。

「きゃっ!」

力が抜け、その場に座り込んでしまった。

「なんで……。」

もう一度立とうとする。

でも。

足が震えるだけで、身体を支えられない。

「嘘……。」

「立って……。」

「お願い……。」

何度も挑戦する。

それでも足は言うことを聞かなかった。



学校。

「碧唯、遅いな……。」

翠は教室の時計を見つめていた。

ホームルームが始まっても、碧唯は来ない。

その時、スマホが震えた。

碧唯
『ごめん。今日は休むね。』

たったそれだけのメッセージ。

翠はすぐに電話をかける。

『……もしもし。』

弱々しい声。

「碧唯!」

「どうした?」

「熱?」

『違う……。』

少しの沈黙。

『足が……。』

「え?」

『立てなくなっちゃった……。』

その一言で、翠の頭が真っ白になった。

「今行く。」

『学校は?』

「そんなのどうでもいい。」

『翠……。』

「待ってて。」

電話を切ると同時に、翠は教室を飛び出した。



碧唯の家。

インターホンを押すより早く、玄関のドアが開いた。

碧唯のお母さんが、心配そうな表情で立っていた。

「翠くん……。」

「碧唯は?」

「部屋にいるよ。」

翠は階段を駆け上がる。

ドアを開けると。

ベッドの上で、小さく丸くなっている碧唯がいた。

「碧唯。」

「……来ちゃった。」

無理に笑おうとする。

でも、その目は真っ赤だった。

「立ってみて。」

碧唯はうなずき、ベッドから足を下ろす。

ゆっくり立とうとする。

だけど——。

力が入らず、そのまま倒れそうになる。

翠はすぐに抱き止めた。

「……っ。」

碧唯は翠の制服をぎゅっとつかむ。

「怖い。」

涙があふれ出す。

「昨日まで歩けたのに。」

「どうして……。」

「どうして、こんなに早く悪くなるの……。」

翠は何も言えなかった。

ただ、震える碧唯を強く抱きしめることしかできなかった。

「大丈夫。」

声も震えていた。

「絶対、大丈夫。」

それが本当かどうか分からない。

それでも。

今はそう言うしかなかった。

窓の外では、秋の風が静かに木の葉を揺らしていた。

二人に残された時間は、少しずつ確実に変わり始めていた。