君と最後のメロディを

病室は静かだった。

規則正しく鳴る心電図の音だけが、部屋に響いている。

翠はベッドのそばの椅子に座り、眠っている碧唯を見つめていた。

青白い顔。

細くなった手。

点滴につながれた腕。

その姿を見るだけで胸が苦しくなる。

「……碧唯。」

そっと名前を呼ぶ。

返事はない。

「お願いだから。」

翠は碧唯の手を両手で包んだ。

「もう無理しないで。」

「曲なんて、今はどうでもいい。」

「俺は、賞なんていらない。」

「有名にならなくてもいい。」

「だから……。」

声が震える。

「生きて。」

「お願いだから、生きて。」

その時。

碧唯の指が、ほんの少しだけ動いた。

「……翠?」

かすれた声。

翠は勢いよく顔を上げる。

「碧唯!」

「よかった……!」

「目、覚めた……。」

安心した瞬間、翠の目から涙がこぼれた。

「えっ……。」

碧唯は驚いたように笑う。

「翠が泣いてる。」

「……泣くよ。」

翠は涙をぬぐおうともせず笑った。

「怖かった。」

「本当に怖かった。」

「もう目を開けないんじゃないかって……。」

碧唯はゆっくりと起き上がろうとする。

「だめ。」

翠はすぐに背中を支えた。

「まだ寝てて。」

「……ごめん。」

「また謝る。」

「だって。」

「心配かけちゃったから。」

翠は首を横に振る。

「謝らなくていい。」

「でも、一つだけ約束して。」

「……なに?」

翠は真っすぐ碧唯を見つめた。

「もう一人で抱え込まない。」

「苦しかったら言う。」

「痛かったら言う。」

「泣きたかったら泣く。」

「俺の前では、強がらない。」

碧唯は静かに涙を流した。

「……うん。」

「約束する。」

その時、病室のドアがノックされた。

「失礼します。」

担当医が部屋に入ってくる。

二人は少し緊張した表情で医師を見る。

「松宮さん。」

「検査結果がそろいました。」

医師は静かにカルテを開く。

「今回倒れた原因は、病気の進行によるものです。」

「今後は、定期的な治療と入院が必要になる可能性があります。」

病室が静まり返る。

「文化祭も……。」

碧唯が小さくつぶやく。

医師は少し考えてから答えた。

「無理はおすすめできません。」

その一言が、碧唯の胸に深く刺さった。

楽しみにしていた文化祭。

みんなの前で『君と過ごす時間』を演奏する夢。

その夢が、今、崩れようとしていた。

碧唯は布団をぎゅっと握りしめる。

「嫌だ……。」

涙が止まらない。

その隣で、翠はそっと碧唯の肩を抱いた。

「大丈夫。」

「まだ終わってない。」

「俺たち、絶対に諦めない。」

そう言った翠の声も、少し震えていた。

二人にとって、本当の試練は――

ここから始まろうとしていた。