君と最後のメロディを

病気のことを打ち明けてから数日。

翠は以前と変わらず接してくれた。

いや。

少しだけ変わった。

「碧唯。」

「ん?」

「今日はちゃんと薬飲んだ?」

「飲んだよ。」

「お昼ご飯は?」

「食べた。」

「休憩は?」

「……ちゃんとした。」

「今の間は?」

「ちょっとだけ嘘。」

「やっぱり。」

翠は困ったように笑った。

「無理しない約束しただろ?」

「ごめん。」

「『ごめん』じゃなくて。」

翠は碧唯の額を軽く指ではじく。

「『ありがとう』。」

「心配してくれて、ありがとう。」

碧唯は照れくさそうに笑った。

「……ありがとう。」

「よくできました。」



休日。

二人は川沿いの公園をゆっくり歩いていた。

風が心地いい。

「碧唯。」

「なに?」

「夢、諦めるなよ。」

碧唯は立ち止まる。

「でも……。」

「もし治療で歌えなくなったら?」

「もし手が動かなくなったら?」

「もし……。」

不安そうに言葉を並べる碧唯を、翠は静かに見つめた。

「『もし』は未来になってから考えよう。」

「今は、今日を大事にしよう。」

「今日、曲を書けるなら書けばいい。」

「今日、笑えるなら笑えばいい。」

「今日、一緒に歩けるなら歩こう。」

「未来が怖くて今日を失うのは、もったいない。」

碧唯は目を潤ませる。

「翠って……。」

「たまにすごくかっこいい。」

「たまに?」

「うん。」

「普段は甘すぎる。」

翠は思わず笑った。

「それ、褒めてる?」

「褒めてる。」

二人は顔を見合わせて笑った。

その笑顔は、病気が分かってから一番自然なものだった。



夕方。

駅へ向かう途中。

碧唯が小さく咳き込んだ。

「大丈夫?」

「うん。」

そう答えた瞬間、少しふらつく。

翠はすぐに腕を支えた。

「ほら。」

「だから無理するなって。」

「……ありがとう。」

「帰ったらちゃんと休む。」

「約束?」

「約束。」

翠は安心したように微笑む。

そして、碧唯の頭をぽん、と優しくなでた。

「碧唯。」

「これだけは覚えといて。」

「夢は一人で叶えるものじゃない。」

「俺も一緒に叶える。」

「だから、焦らなくていい。」

碧唯は涙をこらえながら笑った。

「うん。」

「一緒に叶えよう。」

夕焼けに染まる帰り道。

二人はゆっくり歩き続ける。

それぞれの夢を胸に。

そして、お互いの手の温もりを確かめながら。

その温もりが、これから訪れるつらい日々を支える、大切な力になることを――