君と最後のメロディを

付き合い始めてから、一週間。

何も変わらないようで。

でも、全部が少しだけ変わった。

「碧唯、おはよう。」

「おはよう、翠。」

目が合うだけで笑ってしまう。

手を振るだけで嬉しくなる。

そんな毎日だった。



放課後。

翠は碧唯を学校の屋上へ連れて行った。

夕日が校舎をオレンジ色に染めている。

「ここ、静かだね。」

「碧唯と話したいことがあって。」

翠の表情は真剣だった。

「……どうしたの?」

「もう、隠さなくていい。」

その一言に、碧唯の肩が震える。

「病院。」

「最近、何度も行ってるよね。」

「苦しそうにしてる時もある。」

「俺にまで『大丈夫』って笑う。」

翠は一歩近づいた。

「碧唯。」

「今度は、俺を頼って。」

碧唯はうつむいたまま、ぎゅっと制服の裾を握る。

「……怖いの。」

震えた声だった。

「本当は、すごく怖い。」

涙が一粒、頬を伝う。

「先生に言われたの。」

「病気は少しずつ進んでるって。」

「治療もしなきゃいけないって。」

「でも、治療を始めたら……。」

「思うように曲が作れなくなるかもしれない。」

「学校にも来られなくなるかもしれない。」

「夢を諦めなきゃいけないかもしれない。」

言葉にした瞬間、涙が止まらなくなった。

「嫌なの……。」

「まだ歌を作りたい。」

「もっと翠と笑っていたい。」

「もっと、普通の高校生でいたい……。」

翠は何も言わずに、そっと碧唯の手を握った。

「ありがとう。」

「話してくれて。」

碧唯は驚いて顔を上げる。

翠は優しく微笑んでいた。

「全部、一人で抱えてたんだね。」

「今日からは違う。」

「嬉しい日も。」

「苦しい日も。」

「怖い日も。」

「全部半分こ。」

「俺は碧唯の彼氏だから。」

碧唯は涙を流しながら笑う。

「……うん。」

「ありがとう。」

夕焼けの空の下。

ふたりは見つめあったあと、ゆっくりと唇を重ねた。
とても甘かった。

二人は手をつないだまま、しばらく何も話さなかった。

言葉はいらなかった。

隣にいてくれる人がいる。

それだけで、碧唯は少しだけ前を向ける気がした。

その日、碧唯は初めて一人ではなくなった。