君と最後のメロディを

朝。

「おはよう、碧唯!」

いつものように翠が迎えに来た。

「おはよう。」

碧唯も笑って返す。

でも、その笑顔はどこかぎこちなかった。

「……?」

翠は気づいた。

「どうした?」

「え?」

「何かある?」

碧唯は一瞬目をそらし、笑った。

「何もないよ。」

「……そっか。」

翠はそれ以上聞かなかった。

聞けば、きっと困らせてしまう気がしたから。



昼休み。

碧唯はスマホを見つめていた。

画面には病院からの予約通知。

『本日 16:00 診察』

「……。」

無意識にスマホを握る手に力が入る。

(怖い。)

(でも、行かなきゃ。)

その時。

「碧唯!」

翠が後ろから現れた。

「今日、放課後さ。」

「新しくできたカフェ行かない?」

「パンケーキ食べたい。」

いつもの明るい笑顔。

碧唯は胸が締めつけられた。

本当は行きたい。

本当はいつも通り笑っていたい。

でも——

「ごめん。」

「今日は行けない。」

「用事?」

「……うん。」

「そっか!」

翠は笑った。

「じゃあまた今度!」

その笑顔が痛かった。

(ごめんね。)

(また嘘ついちゃった。)



放課後。

校門で別れる二人。

「気をつけて帰れよ!」

「うん。」

「終わったら連絡して。」

「……え?」

「なんとなく。」

「心配だから。」

碧唯は少し驚いてから、小さく笑った。

「分かった。」

手を振って歩き出す。

でも、向かった先は駅ではなく病院だった。



診察室。

医師は静かに検査結果を見つめている。

「松宮さん。」

「はい。」

「前回より数値が少し悪くなっています。」

その一言で、胸が締めつけられた。

「……。」

「治療を始める必要があります。」

「学校生活との両立も考えながら進めましょう。」

碧唯は静かにうなずいた。

「……はい。」

診察室を出た瞬間。

張りつめていた気持ちが切れてしまった。

病院の廊下で、しゃがみ込む。

「……怖い。」

小さな声。

誰にも届かない声。

「まだ……。」

「まだ曲を作りたいよ……。」

涙が止まらなかった。



その頃。

翠は家でスマホを握りしめていた。

「まだ連絡こないな……。」

時計を見る。

18時。

19時。

20時。

「遅い……。」

嫌な予感が胸をよぎる。

『終わった?』

メッセージを送る。

数分後。

既読。

でも、返事は来なかった。

翠は知らない。

今、碧唯が病院で一人泣いていることを。

そして——

二人の運命が、少しずつ変わり始めていることを。