君と最後のメロディを

by翠
最近、碧唯の笑顔が少しだけ変わった。

笑っている。

ちゃんと笑っているはずなのに。

どこか無理をしているように見える。

「……気のせい、かな。」

そう思おうとしても、心がざわつく。



放課後。

碧唯は「今日は先に帰るね。」と言って、一人で教室を出て行った。

いつもなら、一緒に音楽室へ行くのに。

「珍しいな……。」

翠は窓の外を見る。

校門を出ていく碧唯の背中は、いつもより小さく見えた。

追いかけようか。

でも、「大丈夫」と笑った碧唯の顔が頭に浮かぶ。

結局、その日は見送ることしかできなかった。



家に帰っても、落ち着かなかった。

スマホを開く。



『ちゃんとご飯食べた?』

すぐに既読がつく。

碧唯

『食べたよ😊』



『薬飲んだ?』

送ってから、翠ははっとした。

(……なんで薬なんて送ったんだ。)

慌ててメッセージを取り消そうとした、その時。

碧唯

『薬?風邪じゃないよ😂』

「……。」

翠は小さく息をついた。

ごまかした。

自分でも何を言っているのか分からなかった。

でも。

病院で泣いていた碧唯の姿が、頭から離れない。



夜。

翠は机の引き出しを開ける。

そこには、一枚のCDがあった。

ラベルには、丸い字で書かれている。

『翠へ。一番最初に聴いてね! 碧唯』

中学二年生の頃。

碧唯が初めて最後まで作った曲。

何百回も聴いた。

落ち込んだ日も。

悔しかった日も。

その曲に励まされてきた。

「碧唯……。」

翠はCDを胸に抱く。

「今度は俺が、お前を支える番だから。」

誰にも聞こえないように、そっとつぶやいた。



その頃。

碧唯の部屋の灯りは、まだ消えていなかった。

きっとまた、夢に向かって曲を作っている。

無理をしていないだろうか。

ちゃんと休んでいるだろうか。

心配は増えるばかりだった。

翠は決める。

「これからは、もっと碧唯のそばにいよう。」

「どんな時も、一人にしない。」

その約束が、どれほど大切なものになるのか。

まだ、この時の翠は知らなかった。