君と最後のメロディを

「検査の結果について、お話があります。」

その文字を何度見ても、碧唯の胸の奥は冷たくなった。

スマホの画面を閉じる。

「……まだ、大丈夫。」

誰に言うでもなく、そうつぶやいた。



数日後。

病院の待合室。

碧唯は一人で椅子に座っていた。

周りには、家族と一緒に来ている人たち。

その光景を見て、少しだけ寂しくなる。

本当は怖かった。

でも、翠には言えなかった。

あの優しい笑顔を曇らせたくなかった。

「松宮碧唯さん。」

名前を呼ばれる。

碧唯はゆっくり立ち上がった。



診察室。

医師の表情はいつもより真剣だった。

「最近、疲れやすかったり、息苦しさを感じることはありませんでしたか?」

「……少しだけ。」

「いつ頃からですか?」

碧唯は目を伏せる。

「……数か月前から。」

医師は静かに息を吐いた。

「検査の結果ですが――」

その先の言葉が、遠く聞こえた。

病名。

治療。

これからのこと。

何も考えられなくなる。

「……私、作曲家になれるかな。」

気づいたら、そんな言葉がこぼれていた。

医師は少し驚いたあと、優しく答えた。

「夢を諦める必要はありません。」

でも碧唯には分かっていた。

今までのようにはいかないかもしれない。



病院を出る。

空は綺麗な青だった。

いつもなら綺麗だと思える景色。

今日は少しだけ、遠く感じた。

その時。

「碧唯。」

聞き慣れた声。

振り返る。

「……翠?」

そこには翠が立っていた。

「なんでここに……。」

「迎えに来た。」

「学校は?」

「早く終わった。」

嘘だった。

本当は心配で、碧唯の後をつけていた。

でも、言わなかった。

翠は碧唯の顔を見る。

「泣いた?」

「……。」

碧唯は慌てて笑う。

「泣いてないよ。」

翠は少し悲しそうに笑った。

「また、それ。」

「え?」

「碧唯はいつもそう。」

「辛い時ほど、大丈夫って言う。」

碧唯の目が揺れる。

「……。」

「俺には、笑わなくてもいいよ。」

その一言で。

張りつめていたものが、少しだけ崩れた。

「……怖い。」

初めて。

碧唯が弱音を吐いた。

翠は何も言わず、そっと隣に立つ。

「うん。」

「怖くていい。」

「俺がいるから。」

碧唯の目から、涙がこぼれる。

「……翠。」

「なに?」

「私、まだ曲を作りたい。」

翠は迷わず答えた。

「作ろう。」

「何曲でも。」

「碧唯の音楽、俺がずっと聴くから。」

夕暮れの帰り道。

二人の影が長く伸びていた。

その日から翠は決めた。

碧唯の残された時間を、絶対に一人にしないと。