紳士を目指す幼なじみ〜君のことは私が守る〜

「それじゃあ、
『告白しない理由を話し合う会』
を始めます!」

 青葉が勢いよく宣言する。

「議長は私です!」

「そんな会を急にやるの?」


「もちろん!」

 緑も真面目な顔で頷く。

「好きなのは認めてるんだよね?」
「うん」
「じゃあ、どうして告白しないの?」
 私は少し考えた。
「……分からない」
「分からないって!」

 青葉が思わず突っ込む。

「真君に彼女がいるわけじゃない」
「そうだけど」

「嫌われてるわけでもない」
「それはそう」

「幼なじみで仲もいい」
「仲は悪くないね」
「じゃあなぜ?」

「だから分からないの」
 二人は頭を抱えた。

 三人で一時間近く話し合った。
 恥ずかしいから、
 今の関係を壊したくないから、
 タイミングがないから、
 家柄を気にしているから、
 いろいろな可能性を挙げたが、
 どれもしっくりこない。

 結局、
 原因は分からないまま話し合いは終了した。

「史上最大の謎だね」
 青葉が肩を落とした。
「結論」
 緑が言う。
「本人にも分からない」

 それが今回の結論だった。

 
 翌日の放課後、
 私は担任の先生から職員室へ呼び出された。
「少し話があるんだ」
「何ですか?」

 先生は一枚の紙を机へ置いた。

「まず最初に言うね」
「はい」
「学級委員としての評価は、とても高い」
「ありがとうございます」
「クラスをまとめる力もあるし、
責任感もある。
困っている子にも自然に声を掛けられる」

 そこまでは嬉しかった。

 しかし先生の表情が少し曇る。

「ただね」
「はい」
「部活動と委員会の評価は、かなり低い」

「一つ聞いていいかな?」
「はい」
「あの人がいるから、
部活や委員会を選んでいない?」


 見抜かれてる?
 そんなこと、
 誰にも言ってないのになぜわかるのだろうか?

 私は否定しなかった。

「……そうです」
「やっぱり」
「彼の近くにいたかったので」
 先生は怒らなかった。

「じゃあ逆に聞こう」
「はい」
「君自身が本当に好きなことは?」

 私は考える。
 裁縫、
 料理、
 お菓子作り、
 学級委員、
 人の役に立つこと。

「裁縫です」
「うん」
「料理も好きです」
「他には?」
「お菓子を作るのも好きです」
「なるほど」
「学級委員の仕事も好きです」

 先生は納得したように頷いた。

「それが君のやりたいことなんだね」

「はい」

「誰かがいるからではなく、
自分が好きだから続けられることを選んだ方がいい」

 先生は引き出しから一枚の用紙を取り出した。

「部活、
委員会変更届」
「……」
「一度、自分のために選び直してごらん。
でなきゃ、これから君が苦しくなるよ」

 私は静かにその紙を受け取った。

「ありがとうございます」
     
 放課後、
 真君と一緒に学校を出た。

 校門を抜けたその時だった。

「やっと見つけた」
 女性の声がした。

「カンツウォーネ」

 真君がそう呟いた。

 彼女は私の前まで歩いてくると、
 突然聞いた。

「井東真は好き?」

 あまりに唐突な質問だった。

「あのう……」

 私が答えようとした瞬間、
 真君が一歩前へ出る。

「ただの幼なじみです」
 いつも穏やかな真君とは違う。

 静かだが、はっきりとした口調だった。

 カンツウォーネは私と真君を見比べる。

「ならいいわ」

 そのまま背を向け、
 歩き出す。

 しかし数歩進んだところで止まり、
 振り返らずに言った。

「ちなみに」
 冷たい声だった。
「君の帰る家はないから」

 意味が分からなかった。

 私は、その言葉の意味を理解できなかった。

 カンツウォーネは空高くジャンプをし、
 そのまま消えていった。
     
 その日の夜、
 家へ帰ると、
 テレビでニュースが流れていた。

『本日午後、
市内で男性が何者かに襲われ死亡しました』

 画面に映った写真を見て、
 私は息をのんだ。

「……真君のお父さん?」

 さらに続報が流れる。

『また、市内の人気ショコラティエ店舗で火災が発生しました』

 燃え上がる店、
 消防車、
 黒煙、
 担架で運ばれる女性従業員、
 見慣れた店が炎に包まれていた。

 胸が締め付けられる。

 その時、携帯電話が鳴った。

「もしもし!」
『……僕』
 真君だった。

「大丈夫なの?」

『近所の人が誘導してくれて、
避難した。

僕は無事』

 私は何も言えなかった。
     
 数日後、
 真君の両親の通夜が営まれた。

 白い花に囲まれた祭壇、
 静かな読経、
 参列者のすすり泣く声、
 真君は喪服姿で静かに立っていた。

 涙を見せることもなく、
 訪れた人たちへ深く頭を下げ続けていた。

 告別式、
 そして葬儀も終わる。

 あまりにも突然だった。
   
 身寄りを失った真君は、

 児童養護施設へ入ることになった。

 しかし、
 不幸は終わらなかった。

 一つ目の施設で火災。

 別の施設へ移る。

 そこでも火災。

 さらに別の施設でも火災が起こる。

 偶然とは思えない出来事が続き、
 真君は何度も住む場所を失った。

 遠方の施設へ移る案も出たが、
 それでは白薔薇学園へ通えなくなる。

 最終的に、
 大人たちの話し合いの結果、
 真君は私の家で生活することになった。
 
 私も先生の言葉を思い出し、
 部活動を変更した。

 華道部と書道部を辞め、
 手芸部と調理部へ入部した。

 初めて、自分が本当にやりたいことを選んだ。

 裁縫をしている時間も、
 料理を作る時間も、
 とても楽しかった。