奇跡を起こすソーダ水

 2026年12月13日、7時頃。氷川正信が所有する庭園では、正信と神代怜士が何か言い合っていた。
「何だと……お前バンディッドと凪を見逃しただと!?」
「ええ……食べ頃じゃなかったですからね」
「ふざけるな!お前を雇うのにどれだけ金を払っていると思ってんだ!?」
「それは存じていますよ……ですが、お肉は熟成させれば美味しいのと一緒で、人間は輝きを増したときに喰らうのが美味しい……」
 考えていることこそ狂気的だが、そのおかげで見逃されたのは結果オーライ。
「それに今日は凪が東京ドームなんだぞ!?ガキどもに輝かせてたまるか……!」
「私は食事さえ楽しめればいいんですよ……何なら、正信様をメインディッシュにしても構いませんが?」
「ぐぐぅ……!?わかった……だがもうお前に金を払ったことを忘れるな」
「約束は、守りますよ……」
「まあいい……まだ私には武器がある」
 パンパン……!
 正信が手を2回叩いて和室から現れたのは、アラクネのボス、クロエ。
「久しぶりの東京って悪くないわね。存分に暴れられそう……」
 そしてもう一人は、ブラック・アンヴィルのハンマーだ。
「ウゥゥ……」
「中々個性的な方を味方につけたようですね?君たちの手が必要な気はしませんが……」
「何よいきなり!あんたこそヒョロガリ……」
 シュッ……
 神代は既にナイフを抜いていた。だが——
 ギュイン……
 クロエもワイヤーを装備している。
「言っておくけど、このワイヤーはどんな鋼鉄でも切り裂くわ……」
「面白いですね……」
「やめろお前たち……揉めるなら払った報酬を返してもらおうか……」
「ちっ……!全部終わったら私との勝負を忘れないことね……」
 今は味方同士だが仲は最悪のようだ。だがエクリプス、アラクネ、ブラック・アンヴィルの3大組織の最強格が集結してしまった。正信が率いる3大組織と氷川幸人の仲間たち。夢の舞台を賭けた血の決戦が幕を開こうとしていた。

 同刻。ホテルアーバンステイ麻布では——
「むにゃむにゃ……?あれ……何か重い……?」
 昨日飲みすぎていつの間にか眠ってしまった氷川千尋は、上に何かが乗っている重みで目を覚ました。乗っていたのは——
「幸人……!幸人……重い……」
 幸人だった。そういえば昔から寝相の悪さはかなりのものだった。それにしても母親の上に乗るとは……
 トントン……
「幸人……?」
「むうん……?わぁママ……!?って今何時……!?」
「今……7時だよ」
「ふぅ……」
 今日は凪率いるクリスタルミューズの東京ドームコンサート。開演は16時。まだ時間はあるが、早いところ凪と合流しなければ。
「……」
 プシャ……ゴクゴク……
「ぷは……何ママ?やっぱりまだ不安なの?」
「うん……だって幸人の世代の人って、Aurora Kissなんて知らないでしょ?」
「どうかな?僕と凪ちゃんの世代ならギリギリ知っている範囲かな。それにAurora Kissを知らなくても、北風にKissしてなら知っているはずよ」
 彼の言う通り、20代の世代でAurora Kissを知っているかは微妙だろう。それでも代表曲の『北風にKissして』は多くのアーティストにカバーされた名曲。
「ママならきっと大丈夫。僕が昨日言ったこと覚えてる?」
「昨日の?ええっと……」
「僕が作るソーダ水を飲んだ人は皆奇跡を起こしてきた。それはママも同じってことよ……」
 千尋が飲んだのは幻覚誘発剤入りのソーダ水と、ものすごく強炭酸のソーダ水。きっと後者のソーダ水が奇跡を起こしてくれる。
「朝ごはん食べたら凪ちゃんのとこに行くわよ」
「凪……」
 凪と会えば15年ぶりの再会。トップアイドルになった娘が今の姿を見たら、軽蔑されるのではないかと怖くなる。幸人からもらった服はダボダボのセーターとスウェットパンツ。裸足だった頃よりはマシだが、誰が見てもやつれているように映るだろう。
 ガツガツ……
 ホテルのモーニングを済ませた2人は、タクシーで東京ドームへ向かった。当日なら早い時間から最終リハーサルを行っているはずだ。

 2026年12月13日、9時頃。何とかメンバーと合流した凪はコンサートに向けてリハーサルをしていた。昨日まで脚の痙攣が残っていたが、かなり軽減されていて本番でも問題ないだろう。そんなとき——
 バタン……
「どちら様……ってお兄ちゃん……!?それに……ママ……!?」
「お兄ちゃん?凪に兄がいるのは聞いていたけど……」
「はじめまして……いきなりお邪魔して悪かったわね?」
「紹介するね……私の兄の、氷川幸人よ」
 案の定凪以外のメンバーは口を開けて驚いている。それに加えて、連れている中年の女性にもどこか見覚えがあるようだ。だが、アイドル界の大先輩であることに気づいていない。
「ママ……今までどこに行っていたのよ!?」
「ごめんね……東京から札幌に帰れなくて、ホームレスしていたの……」
 ギュッ……!
「ママのバカ……!私はいつだってママを助けたかったんだよ……?それなのに何で一人で……」
「凪……」
「ごめんね凪ちゃん……僕もクロエから聞くまでママの居場所を知らなかったの。僕も昨日会ったばかりよ」
「グスン……でもお兄ちゃん、わざわざここに来たってことは、私に何かお願いごとがあるからでしょ?」
「さすが凪ちゃん!やっぱりわかるわね」
 彼は妹にクリスタルミューズのパフォーマンスが全て終わったら、母をステージに立たせて歌わせてほしいとお願いした。
「凪ちゃんの力ならできるでしょ?」
「うぅん……」
 いきなりのお願いに首を縦には振ってくれない。やはり難しいのか?
「できるよ。それは全然……でもサプライズ出演なら当然極秘になるわ……」
「もちろん秘密は守るわ。それと会場の護衛は任せて」
 父の正信はアイドルを嫌っている。何らかの方法で襲撃を仕掛けることが予想されるだろう。
「でもお兄ちゃん一人で手が回らないんじゃ……」
「それは心配ないわ。とっておきの助っ人がいるからさ」
 彼はこの日のために仲間を用意している。それは誰なのだろうか?
「けどわかったわ。ママのことは私に任せて。でも一つ問題があるの……」
「何?」
「……衣装がもうないの!替えの衣装も……」
「ええっ……!?でも、衣装なんかなくても問題ないわよね?ママ」
 ステージで歌うには確かに衣装が必要かもしれない。だが、ときにはありのままの姿で歌うことが必要な場合もある。
「この格好で歌うわ……」
「よし!じゃあこれで決まりね。凪ちゃんもいいわよね?」
「わかったわ……」
 話し合いの結果、氷川千尋は『CHIHIRO』として歌うのではなく、あくまで氷川千尋として歌うことに決定した。凪以外のメンバーはまだ千尋の正体に気づいていないが、サプライズ出演だから最後に明かす形が面白い。
「よし……皆!私たちの夢のステージ、必ず成功させるわよ!」
「オー……!」
 氷川凪を含む7人のアイドルグループ、クリスタルミューズ。私たちの夢を叶えるため、そしてファンの方々の夢を守るためのステージ。その幕開けの時が、時計の音と共に近づいていった。

 2026年12月13日、15時。コンサートの開演まであと1時間。幸人は夢のステージを守るため、仲間と合流して作戦会議をしている。その仲間とは——
「静香さんに彩海さん……今日は本当にありがとう。わざわざ来てくれたなんて!」
 そう。解散したノクターンの元メンバーたちだ。幸人の第二の母である黒瀬静香は63歳になっているが、戦闘力は未だ衰えを知らない。静香と彩海に加え、他数名の元メンバーが集まってくれた。
「それよりあるのよね?とっておきが……」
「もちろんよ」
 ガチャ……
「これは消音効果が完璧なサイレンサーを装着したVSSよ。スコープも高倍率、光学に変えることもできるわ」
「それは最高ね!僕は南の方ね?じゃあこれで持ち場に移動しましょ!」
 幸人を含むノクターンの元メンバーたちはそれぞれの狙撃ポイントに移動すると、襲撃に備えて神経を集中させる。
「会場には指1本触れさせない……凪ちゃん、僕を信じて!」

 そして迎えた16時。東京ドームの中は大歓声に包まれていた。
「皆さんこんにちは……クリスタルミューズです!皆さんも大きな声で……いちにっ……」
「クリスタルミューズ!!」
「皆様の温かい応援のおかげで、私たちはここまで頑張っていけて、無事にこの日を迎えることができました……まずは聴いてください、君と描くオーロラ!」
 ♪〜♪〜
「ウォーー……!!」
 バーン……!
「夜空に溢れた七色の光 君の横顔をそっと照らしてる〜」
 凪の脚はわずかに震える。それ以上に彼女の信念は誰よりも強かった。観客席から輝く無数のペンライトが彼女たちを照らす。笑顔に包まれるステージだが、その外では——

「こちら異常なし……」
「了解よ」
 会場の外では幸人たちが狙撃ポイントから護衛している。開演から1時間経過しているが、今のところ怪しい動きはない。すると——
「この男は銃を持っているわね……でも無駄よ……」
 ピュゥン……
 ライフルから弾丸が放たれる。その一発は頭部に命中したのだが、なぜか血が出ていない。
「こんな公の場で殺すわけないでしょ?」
 ライフルに仕込まれていたのは実弾ではなく麻酔弾だった。静香が独自に改造して開発した仕様。コンサートが終わるまで眠ってもらおう。だが意外なことに、彼が今日に至るまで出会ったクロエやハンマーなど、強敵が現れるような気配がない。ステージを壊すことが本来の目的ではないのか?
「あれは……」
 彼がスコープから見た人影は父の正信だ。自分から破壊しに行こうって魂胆なのか。彼は無線機で指示を出す。
「幸人よ。今パパを見つけたわ。僕が直接行くけど引き続き護衛をお願い。僕は大丈夫だから」
「了解」
 彼はそのままライフルをジュラルミンケースに仕舞うと、そのまま階段を降りてダッシュを切った。

「……」
 正信は強力なプラスティック爆弾をドームに貼りつけようとしている。神代怜士には『食べ頃じゃない』と断られ、クロエとハンマーも計画に乗ってくれなかった。どいつもこいつも私をイライラさせる……
 カチッ……
「おやおやパパ……爆破なんて大犯罪よ?」
「……!?貴様……何でこんなとこに……!?」
「何って?夢を守ることが僕の仕事だから」
「あんなガキの夢の何がいい……」
「昔から僕のパパは頭がおかしいって思っていたけど、まさかここまでとはね……大物の皮を被った狂人、氷川正信……!」
 彼は遂に父親を『パパ』と呼ぶことをやめた。少しの慈悲こそ持っていたが、彼ももう限界だ。
「お前はアイドルの女の子を何人も殺し、夢のある若者の命まで奪った……もう氷川幸人、絶対に許さないんだし……!!」
 コツ……コツ……
 ブーツの小さく重い音が、ゆっくりと近づいてくる。恐怖に震える正信。息子を何度も殺そうとし、友達の命すら奪い、夢を奪おうとする正信の腰抜けた姿。
「来るな……!」
 ドスッ……!
 正信の拳は彼の綺麗な頬に直撃。しかし——
「ハハハ……ハハハハ……!まさかこれが全力なんて、言わないわよね……?」
「何……!?」
「お前に飲ませるなら、どのソーダ水がいいかしら?今から楽しみね……」
 とことん苦しませるソーダ水を飲ませて、後でゆっくり殺していこう。
「これがいいわね!もう逃げ……」
 スパッ……!
「フッ……!」
 すさまじいナイフ捌きが彼のマフラーを切り裂いた。
「誰……?」
「神代……!?」
 正信を守るために現れたのは神代怜士だ。やはり殺されてしまって金が入らないのは避けたいのだろう。
「あなたが御子息の氷川幸人ですね?」
「随分丁寧な挨拶じゃない?」
「ほお……今のあなたを見るに、食べ頃ではなさそうですね……?」
 神代の台詞を聞いて幸人はあることを思い出した。
「その言葉、あなたエクリプスね?」
「さすがノクターンにいただけありますね?」
 ピッ……
 神代が指をパチンと鳴らす。すると、エクリプスの構成員と思われる男たちが死体を引き摺ってきた。中には……
「彩海さん……!?」
 針宮彩海は既に息絶えていた。
「ノクターンも甘いですね?スコープを使ってしまうなんて、光が反射すると考えなかったんですか?」
「貴様……!よくも彩海さんを……それより、静香さんは……!」
 数秒後、静香も2人の男に腕を掴まれ、引き摺られてきた。拘束している男もボロボロだ。どうやら静香だけは殺せなかったのだろう。
「幸ちゃん……逃げて……!」
「静香さん……!?」
 ノクターンの元メンバーで唯一生きているのは静香だ。彼は一気に焦りだす。それでも彼は冷静に頭を回転させる。
「……」
 彼は腕時計を確認する。18時を回ろうとしている。コンサートの終演予定時間は19時……もう時間がない!
「時間がないわね……もう僕は遊ばないよ……」
「幸ちゃん……」
「貴様らもう許さない……彩海さんたちの仇……もう、
ブッ殺す……!!絶対に許さないんだし……!」
 空気が一気に歪むほどの圧を放つ。
「何なんだこいつ……あんな気持ち悪い奴が……!?何躊躇ってんだ!さっさと殺せ……!」
「私は美味しそうかどうか見させてもらいますよ」
 正信の号令にエクリプスの構成員らは幸人に殺意を向ける。
「貴様らは炭酸の微笑に喧嘩を売った……その代償、骨身に刻みつけるわ……」

 18時半前。コンサートはクライマックスを迎えている。
 バシュウゥ……!!
 ステージからウォーターキャノンが放たれ、観客席に水が降り注ぐ。
「盛り上がってますか!でもお外に出たら風邪引かないでね?」
「凪!今水がかかったってことは?」
「それは何と?」
「私たちのニューシングル……」
 クライマックスでは新曲の発表だ。歓声がより大きくなる。
「じゃあ、せーのっ……!」
「弾ける恋はソーダ味!」
「ウォーー……!!」
 そう。ニューシングルは『弾ける恋はソーダ味』。作詞作曲は氷川凪。
「発売日は年明けの1月3日になりますが、聴いてください……『弾ける恋はソーダ味』」
 ♪〜♪〜
「シュワシュワ弾けるこの気持ち 君を見つけたら 止まらない 透明だった私のハート 恋の色に染めてよソーダブルー」
 本来なら振り付けが決まっている。だが、凪の脚は既に限界だった。これはミュージックビデオが公開されるまでのお楽しみでもいいだろう。この曲が終わったら、いよいよサプライズ出演。私たちが、皆を幸せに包んじゃうわよ!

 その頃、会場の外では——
 ビチャ……
 幸人は静香たちを上回ったエクリプスですら、天と地ほどの差を見せつけるように圧倒していた。
「こいつは一体どうしちまったんだ……!?」
 正信はバケモノを見ているかのように、開いた口が塞がらないどころか、ズボンにシミがついている。しかも幸人は、全くダメージを負っていなかった。
「正信様……息子さんはやっぱり美味しそうですね……」
「何で落ち着いていられるんだ……!?お前の仲間が殺されてんだぞ……!」
 やがて最後の一人になった構成員は——
 ガシッ……!
「砕け散った夢のように、貴様も砕ければいいわ……」
 彼はあらかじめ用意していたソーダの空瓶を口に咥えさせ、そのまま顎を蹴り上げる。すると——
 バリーン……!
「カァ……!」
 咥えていた瓶が音を立てて割れ、口の中が血まみれになりながら、瓶の破片を飲み込んで死んだ。
「さあ次は誰かしら……?」
「ちくしょう……!逃げるぞ神代……!」
「待ちなさい!」
 シャキン……!
「まさかあなたから殺されたいの?」
「いえ、あなたのことは気に入りましたよ……氷川幸人さん……ですが今のあなたに勝っても、私のお腹は満たされません……明日、氷華殿で待っていますよ……」
「そう?なら首を洗って待っているべきね……あなたじゃ僕なんて食えないだろうけど……」
 氷川幸人と神代怜士の戦いは翌日になった。正信は神代を置いてどこかへと逃げたが、あんな奴はすぐにでも捕まえられる。
「静香さん……!」
 ダッダッダッ……!
「静香さん!静香さん……!」
「うぅ……強くなったわね……幸ちゃん……?」
「ごめんなさい……僕のせいで……皆が……」
「幸ちゃんのせいじゃないわ……私たちが弱かったから……でも、幸ちゃんは誰よりも強い。それは忘れちゃダメよ……?」
 ギュッ……
「それより、もうそろそろ時間じゃないの……?」
「あっ!今……6時35分ね。うん!もうそろそろだと思うわ!」
「中で観れないのは残念だけど、病室でゆっくり観るのも悪くないわね……」
「僕は後で感想聞いちゃおっかな!」
 彼は静香を担いで病院へ向かった。彩海を含むメンバーたちの遺体は、静香と協力関係にある『エルス』という組織に任せてある。大きな犠牲こそ出てしまったが、彼は夢のステージを守り抜いた。ママは思う存分、夢を歌いなさい……!

 19時前。
「本日はありがとう!クリスタルミューズ、皆のこと愛してるぜ!」
「ウォーー……!!」
「本当に残念ですが、これで私たちの公演は終了になります……ですが!」
「オオーー……!?」
「何と今回……サプライズがございます!まずはこの曲をお聴きください!」
 ♪〜♪〜
 流れたのは『北風にKissして』。誰もが一度は聴いたことのある名曲に、ファンたちは懐かしさを感じている。どうしてこの曲を流したのかは、すぐにわかる。そして1番が終わると——
「では本日のサプライズ出演は、この方です!」
 トン……トン……
 ステージに恐る恐る現れたのは氷川千尋だ。CHIHIROではなく、千尋として。やはりトップアイドルだった頃の面影がない姿を見て、多くの人が混乱している。
「ではお願いします……氷川千尋で、『北風にKissして』!」
 名前を聞いた瞬間、観客から驚きの声が上がる。そして彼らは確信した。今ステージに立っているのは、皆のアイドル、氷川凪の母親ということを。
 ♪〜♪〜
「北風にKissして あなたに届け」
 その声は、アイドルだったときと全く変わらない、美しい歌声だった。千尋の歌声が会場を包み込む……ファンの中にはAurora Kissの世代を生きた人もおり、涙を流す人もいた。
「うまく笑えない夜があっても あなたの夢なら きっと消えない」
 そうして千尋が歌い終わった頃には——
「ウォーー……!!」
「CHIHIRO!」
「戻ってきてCHIHIRO!」
 大歓声の中、千尋の復帰を望む声が相次いだ!
「皆さん……ああ……!」
 千尋は嬉しさに耐えきれず、涙がポロポロと溢れた。アイドル人生を失って15年間、ずっと『もう一度歌いたい』という夢が叶い、そして温かい声に包まれた。これも全部、幸人と凪のおかげよ……!ありがとう……!
「よし!じゃあ最後に……クリスタルミューズは〜?せーのっ!」
「8人で届ける、最高純度のきらめきを!」
「ウォーー……!!」
 クリスタルミューズは7人。だが今回は、CHIHIROの復活記念で8人だ。そして千尋がマイクを再び持つ。
「皆さん……これからもクリスタルミューズを、よろしくお願いしまーすっ!!」
「ウォーー……!!」
 できた!夢を届けられた!まだまだ氷川千尋のアイドル人生は終わっていなかったんだ!恥ずかしくて言えないけど、今日だけは言わせてほしい……
「皆さん……愛してるぜっ!!」