「……っ、おい。散々探させやがって」
漆黒のタキシードを着崩した、学園の絶対君主。
朔先輩だった。
いつもは完璧にセットされている黒髪は風で乱れ、額には汗が滲んでいる。
SPも使わず、自分の足で冷たい冬の街を必死に走り回ってくれたことが、その姿から痛いほど伝わってきた。
鋭く熱を帯びた瞳が、逃げ場を失った私を真っ直ぐに射抜く。
「さ、朔、先輩……っ!? どうしてここに! 今日はプロムの主役なのに!」
「あんなもん、お前がいねぇのに出る意味ねぇだろ」
朔先輩は、唖然とする友達や野次馬なんか一切気にする様子もなく、長い脚でズカズカと狭い部屋に踏み込んでくる。
そして、私が握りしめていたマイクをぽいっとソファに放り投げると、そのまま私の手首を強引に引き寄せた。
「なななななんですか!?」
「スマホも持ってねぇお前を、自分の足で探し回るのがどれだけ大変だったか……。あのふざけた置き手紙で、俺が大人しく引き下がると思ったか?」
ドンッ、と背中が壁にぶつかる。
鼻先が触れそうなほどの至近距離に先輩の綺麗な顔があって、冷たい外気の匂いとシトラスの香りが、カラオケボックスの空気を完全に上書きしていく。
「ジジイに、何か言われたんだろう」
「っ……それは……」
「お前は俺の専属だろ。俺の未来だの家柄だの、そんな勝手な理由で俺の前から消えようとすんな。ジジイの戯言なんざ全部俺が捻り潰してやる」
先輩の大きな手が私の頬を包み込み、親指が目尻に浮かんだ涙を優しく拭う。
「……俺が欲しいのは、お前だけだ。もう絶対に逃がさねぇ」
チカチカと回る安っぽい照明の下、外野の歓声と悲鳴が飛び交うカラオケボックスで、まさかの壁ドン&公開告白!?


