初恋のパルファムには、女嫌いな天才を狂わせる毒が入っている。

千瀬が去ったあとの調香室は、急に静まり返ったように感じられた。

彼が通り過ぎた場所に、わずかに残る洗練されたウッディ調の香り。

それが彼の

「1位の証明」

のようで、私はもう一度、自分の評価用紙を強く握りしめた。

「悔しい、な……」

大人しい自分が、彼の前でだけあんなに強気になれるのが不思議だった。

けれど、彼が私を「ライバル」として評価用紙を見てくれたことだけは、胸の奥で小さく燻(くす)ぶっている。


翌日、放課後の実習室で、次のコンテストの課題が発表された。

黒板に大きく書かれた文字は、『体温に溶ける香り』。

「香水は、ムエット(試作紙)の上だけで完成するものではない。人の肌に触れ、その人の体温と混ざり合って初めて、本当の香りが生まれる」

講師の説明を聞きながら、私は思わず隣の席を盗み見た。

千瀬はいつも通り白シャツの袖を捲り、退屈そうに頬杖をついている。

けれど、その視線は黒板の文字を鋭く射抜いていた。