初恋のパルファムには、女嫌いな天才を狂わせる毒が入っている。

「……お前、今なんて言った?」

千瀬がゆっくりとこちらを振り向いた。

その色素の薄い綺麗な瞳が、驚いたようにわずかに大きく見開かれる。

いつも私を「無難だ」と切り捨てる彼の視線が、初めて私の存在そのものをじっと捉えたような気がして、ウブな私の心臓がドクンと嫌な跳ね方をした。

「……だから、私なら雑音にはならないって言ったんです。千瀬くんにだけは、絶対に負けたくないから。お互いに試作を評価し合うのが、今回の課題ですよね?」

緊張を隠すように、少しだけ強気に胸を張ってみせる。

千瀬は無言のまま、じっと私の顔を見つめていた。

調香室の静寂の中で、無機質な硝子器具の触れ合う音だけが遠くで小さく響いている。

「……無香料、か」

千瀬はそう低く呟くと、ポケットから手を抜き、ゆっくりと私の方へ一歩、歩みを進めてきた。