初恋のパルファムには、女嫌いな天才を狂わせる毒が入っている。

「……悔しいけど、本当に綺麗な香り。でも、千瀬くんが言う『足りない何か』って、何なの?」

私が素直にその才能を認めつつ、少しだけ強気に核心を突くと、千瀬はフラスコを掴んだままピタッと動きを止めた。

夕暮れのオレンジ色の光が、彼の端正な横顔をいっそう冷徹に、そしてどこか物憂げに縁取っている。

「それが分かれば苦労しねぇよ、お前。……紙の上じゃ、これ以上のシミュレーションは限界なんだわ」

千瀬はぶつぶつと低く呟きながら、試作紙を灰皿に放り投げた。

名門クラスのトップを僅差で争い続けるライバルだからこそ、彼は自分の『完璧な計算』が、あと0.1点のところで壁にぶつかっていることに、誰よりも焦り、苛立っているようだった。

「紙じゃなくて、本物の……人間の体温と混ざらなきゃ、これ以上の正確なデータは出ねぇ」