ひまわりが咲く場所で(続)描きちゅう


by梨衣

総合病院の夕方。

仕事を終えた看護師の梨衣は、ロッカーの前で立ち尽くしていた。

ロッカーの中には、一枚の白い封筒。

『今日も見ていたよ。』

震える手で手紙を握りしめる。

「……また。」

そのとき、廊下の向こうから足音が聞こえた。

「何をしている。」

低く、冷たい声。

振り向くと、白衣をまとった医師・瑠唯が立っていた。

病院内では”冷徹な天才医師”と呼ばれ、患者にも職員にも必要以上に感情を見せないことで有名な人物だった。

「瑠唯先生……。」

「仕事が終わったなら帰れ。」

いつも通りの冷たい言葉。

しかし梨衣は思い切って封筒を差し出した。

「先生……相談があります。」

瑠唯は黙って手紙を受け取り、一文字ずつ目を通す。

その瞬間、わずかに表情が変わった。

「……誰にも話したか。」

「まだ先生だけです。」

「そうか。」

短く答えると、瑠唯は封筒を閉じた。

「これはいたずらではない。ストーカーの可能性が高い。」

「やっぱり……。」

「今日から一人で帰るな。」

「でも……。」

「これは命令だ。」

冷たい口調だった。

けれど、その声には梨衣を心配する気持ちが隠れていた。

梨衣は小さくうなずく。

「……はい。」

瑠唯は背を向けて歩き出す。

「帰るぞ。」

「え?」

「送る。」

それだけ言うと、振り返りもせず歩き始めた。

梨衣は少し驚きながら、そのあとを追いかける。

(先生って、本当は優しい人なのかな……。)

そんなことを考えているとは知らず、瑠唯は胸の奥で静かに誓っていた。

――莉緒。

――今度こそ、お前は俺が守る。

梨衣は知らない。

自分が瑠唯の最愛の人・莉緒の生まれ変わりであることを。

梨衣にだけは隠しきれない優しさを向けていることを。