ひまわりが咲く場所で(続)

ただいま。」

その一言を聞いた瞬間、張りつめていた糸が切れそうになった。

……莉緒。

いや、今は梨衣だ。

俺はゆっくり立ち上がる。

「立てるか。」

「うん……。」

梨衣は立ち上がろうとしたが、足元がふらついた。

「危ない。」

反射的に腕を支える。

「ご、ごめん……。」

「謝るな。」

その声はいつも通り冷たかった。

だが、手だけは離さなかった。

その様子を、少し離れた場所から神崎蓮が見つめていた。

「……。」

蓮は苦しそうに二人を見つめる。

「そんな顔で笑うんだ。」

梨衣が瑠唯を見上げて笑う。

その笑顔は、自分には向けられない。

蓮は拳を握りしめた。

「嫌だ……。」

一歩、また一歩と近づく。

「梨衣!」

俺はすぐに梨衣を自分の後ろへかばった。

「先生……。」

「下がっていろ。」

蓮は震える声で言う。

「どうしてですか。」

「……。」

「僕はただ、梨衣さんに幸せになってほしかっただけなのに。」

俺は蓮から目を離さない。

「その気持ちを押しつけるな。」

「押しつけ?」

蓮は笑った。

「先生に何が分かるんですか。」

「分かる。」

俺は静かに答える。

「相手を思うなら、恐怖を与えるようなことはしない。」

蓮は何も言い返せなかった。

その時、遠くからサイレンの音が聞こえる。

警察だった。

蓮は振り返り、小さく笑う。

「今日は負けます。」

そう言い残し、逃げようとした瞬間、警察官たちが駆け込み、その場で取り押さえた。

「神崎蓮さんですね。」

蓮は抵抗せず、静かにうつむく。

「……ごめんなさい。」

その謝罪が誰に向けられたものなのかは、誰にも分からなかった。

警察に事情を説明したあと、倉庫の外へ出る。

夜空には満天の星が広がっていた。

梨衣は俺の隣を歩きながら、小さく言う。

「瑠唯。」

「なんだ。」

「ひまわり畑。」

俺は足を止める。

「また、一緒に行きたい。」

その言葉に胸が熱くなる。

「……ああ。」

短く答える。

「今年も咲く。」

梨衣は嬉しそうに笑った。

「約束ね。」

俺は小さくうなずく。

「約束だ。」

今度こそ。

もう二度と、この手を離さない。