by瑠唯
目の前で、梨衣が苦しそうに頭を押さえた。
「っ……。」
「梨衣!」
思わず名前を呼ぶ。
いつもなら冷静でいられるはずなのに、今は違った。
頼む。
何も思い出さなくていい。
いや……。
思い出してほしい。
相反する気持ちが胸の中でぶつかり合う。
そのとき、梨衣が小さくつぶやいた。
「……ひまわり。」
俺の鼓動が止まりそうになった。
「ひまわり畑……。」
その言葉を聞いた瞬間、時間が止まったような気がした。
その場所は、俺と莉緒だけの秘密だった。
誰にも話したことはない。
忘れられるはずのない、俺たちの思い出。
⸻
夏。
青い空の下、一面に広がるひまわり畑。
「瑠唯!」
振り返ると、莉緒が笑っていた。
「こっち!」
俺は苦笑しながら歩いていく。
「転ぶなよ。」
「子ども扱いしないで!」
ひまわりの中でそう言って笑う莉緒は、太陽みたいだった。
このひまわり畑だけは、二人だけの特別な場所だった。
帰り際、莉緒が俺の小指を握った。
『もし、生まれ変わっても……。』
『必ずお前を見つける。』
そう約束した。
そして999本のひまわり。
でも——。
俺は約束を守れなかった。
莉緒は俺の前からいなくなった。
何年たっても、忘れることなんてできなかった。
⸻
「瑠唯……。」
現実へ引き戻される。
梨衣が俺を見つめていた。
その瞳は、今までとは違う。
「思い出した……。」
涙があふれている。
「ひまわり畑……。」
「10個の死ぬまでにしたいことリスト。」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが音を立てて崩れた。
「……莉緒。」
ずっと呼びたかった名前。
何度夢の中で呼んだか分からない名前。
梨衣は静かにうなずいた。
「全部じゃない。」
「でも、瑠唯との思い出は忘れてなかった。」
俺はゆっくりと梨衣の前にしゃがみ込む。
「……遅い。」
それしか言えなかった。
もっと伝えたいことは山ほどある。
「会いたかった。」
「ずっと探してた。」
「もう二度と失いたくない。」
それでも、口から出たのは不器用な一言だけだった。
「おかえり。」
梨衣は涙を流しながら笑う。
「ただいま。」
その笑顔は、あの日ひまわり畑で笑っていた莉緒と、まったく同じだった。

