ひまわりが咲く場所で(続)

夜勤明け。

梨衣は病院を出ると、瑠唯から届いたメッセージを見た。

『急患対応中だ。先に帰れ。』

「先生、忙しそう……。」

そうつぶやき、駅へ向かって歩き始める。

その途中、一台の黒い車がゆっくりと近づいてきた。

「梨衣さん。」

窓が開き、神崎蓮が姿を現す。

「神崎さん……。」

梨衣はすぐに後ずさる。

「近づかないでください。」

「話をするだけだ。」

「お断りします。」

梨衣が走り出そうとした瞬間、蓮は梨衣の腕をつかんだ。

「離してください!」

梨衣は抵抗するが、蓮はそのまま車へ連れて行こうとする。

「お願いだから、話を聞いて!」

その声は悲しそうだった。

しかし梨衣は首を横に振る。

「助けて……!」

その叫びは夜の街に響いた。

────────

病院。

瑠唯のスマートフォンが鳴る。

「瑠唯先生!」

警備員が息を切らして駆け込んできた。

「梨衣さんが何者かに連れ去られました!」

その瞬間。

瑠唯の表情が初めて大きく変わる。

「……場所は。」

冷静な声だった。

だが、その瞳には隠しきれない焦りが宿っていた。

警備員から居場所を聞くと、瑠唯は白衣を脱ぎ捨て、病院を飛び出した。

(頼む……間に合ってくれ。)

────────

人気のない倉庫。

「離してください!」

梨衣は必死に距離を取る。

蓮は苦しそうな表情で首を振った。

「どうして分かってくれないんだ。」

「私はあなたのものじゃありません!」

その言葉に蓮は動きを止める。

そのとき——。

倉庫の扉が勢いよく開いた。

「梨衣!」

瑠唯だった。

「先生……!」

梨衣は涙を浮かべる。

瑠唯はゆっくりと梨衣の前へ立った。

「神崎蓮。」

低く冷たい声が響く。

「終わりだ。」

蓮は苦笑する。

「あなたには分からない。」

「……分かる必要はない。」

瑠唯は一歩も引かなかった。

そのとき、蓮が梨衣のほうへ踏み出す。

「来るな!」

瑠唯はとっさに梨衣をかばった。

二人は床へ倒れ込む。

その衝撃で、梨衣の頭に激しい痛みが走った。

――きれいなひまわり畑。


『莉緒……。』

『また来世で会えたら、その時も私を見つけてね。』

『約束だ。』

次の瞬間、光景は消えた。

梨衣は息をのみ、震える声でつぶやく。

「……瑠唯、先生?」

瑠唯が振り返る。

「どうした。」

梨衣の目から涙があふれた。

「どうして……その名前を聞くと、こんなに苦しいの……。」

瑠唯は目を見開く。

梨衣の中で、止まっていた前世の記憶が、少しずつ目を覚まし始めていた――。