ひまわりが咲く場所で(続)

数日後。

神崎蓮は姿を見せなくなっていた。

それでも瑠唯は警戒を解かなかった。

「梨衣。」

朝の申し送りが終わると、瑠唯が声をかける。

「今日からしばらく、外来の補助に入れ。」

「え? 私ですか?」

「ああ。」

「でも、担当が……」

「変更は俺が許可を取った。」

いつも通り淡々とした口調。

理由は言わない。

だが、本当の目的は一つだった。

自分の近くにいれば守れる。

梨衣は少し不思議に思いながらも頷いた。

「よろしくお願いします、先生。」

「……ああ。」



診察は次々と進んでいく。

「次の患者さん、どうぞ。」

梨衣は瑠唯の隣でカルテを準備し、必要な器具を手渡す。

「ありがとう。」

診察を終えた年配の女性患者が笑顔で言った。

「先生と看護師さん、本当に息がぴったりね。」

梨衣は照れて笑う。

「そんなことないですよ。」

女性は瑠唯を見る。

「先生、もう少し笑ったらもっと人気が出ますよ。」

診察室が一瞬静まり返る。

瑠唯はカルテを書きながら一言だけ返した。

「診察に笑顔は不要です。」

女性は苦笑いしながら診察室を出ていった。

扉が閉まると、梨衣は思わず吹き出してしまう。

「先生、本当にそのまま言うんですね。」

「事実だ。」

真顔で答える瑠唯。

梨衣は笑いが止まらない。

その笑顔を見た瑠唯は、ほんの一瞬だけ口元を緩めた。

ほんの一瞬。

梨衣は気づかなかった。



昼休み。

「先生、お弁当食べました?」

「まだだ。」

「私、おにぎりを作りすぎちゃって……。」

梨衣は包みを差し出した。

「よかったら、一つどうですか?」

瑠唯は黙って包みを見つめる。

普段なら断る。

だが——。

「……もらう。」

短く答え、おにぎりを受け取った。

「ありがとうございます。」

梨衣は嬉しそうに笑う。

「先生が受け取ってくれるなんて、ちょっと意外でした。」

「捨てるのはもったいない。」

ぶっきらぼうな返事。

けれど、そのおにぎりを一口食べた瑠唯は、誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやく。

「……うまい。」

その言葉は梨衣には届かなかった。

しかし、二人の距離はほんの少しだけ縮まっていた。

一方、病院の向かいのビルの屋上では、双眼鏡をのぞく男がいた。

神崎蓮は、おにぎりを渡して笑う梨衣を見つめ、静かに拳を握る。

「……そんな笑顔、あの医者には見せないで。」

蓮の執着は、さらに強くなっていくのだった。