ひまわりが咲く場所で(続)

病院内には、神崎蓮の写真が警備担当者にだけ共有されていた。

患者や職員を混乱させないため、情報は極秘。

梨衣だけは、まだ何も知らない。

「梨衣。」

朝の回診へ向かおうとした梨衣を、瑠唯が呼び止めた。

「今日は必ず誰かと行動しろ。」

「え? 急にどうしたんですか?」

「理由は聞くな。」

「……はい。」

瑠唯はそれ以上何も話さなかった。

梨衣は少し不思議に思いながらも、頷く。

昼過ぎ。

休憩時間になり、梨衣は一人で売店へ向かった。

その様子を、遠くから一人の男が見つめていた。

帽子にマスク、眼鏡。

変装しているため、誰も気づかない。

神崎蓮だった。

「やっと一人になった……。」

蓮は静かに梨衣へ近づく。

「梨衣さん。」

突然名前を呼ばれ、梨衣は振り返った。

「えっと……どちら様ですか?」

「覚えてない?」

蓮は悲しそうに笑う。

「入院していたとき、毎日話してくれたのに。」

梨衣は必死に記憶をたどる。

「ごめんなさい……患者さんのことはたくさんいるので……。」

その言葉を聞いた蓮の表情が変わった。

笑顔が消え、目だけが冷たくなる。

「忘れたの?」

一歩。

また一歩。

梨衣との距離を縮める。

「君は僕だけを見ていてくれた。」

「ち、違います……。」

梨衣が後ずさった、その瞬間。

「そこまでだ。」

低く冷たい声が廊下に響く。

瑠唯だった。

白衣のポケットに手を入れたまま、鋭い視線で蓮を見つめる。

「病院への立ち入りは禁止されているはずだ。」

蓮は小さく笑った。

「先生には関係ない。」

「ある。」

瑠唯は一歩前へ出る。

「梨衣は病院の職員だ。安全を守るのは俺たちの仕事だ。」

二人の間に緊張が走る。

蓮は梨衣を見つめ、静かにつぶやいた。

「……また迎えに来る。」

そう言い残すと、人混みに紛れて姿を消した。

瑠唯はすぐに警備員へ連絡を入れる。

「神崎蓮が病院内に侵入した。出入口を封鎖して捜せ。」

「了解しました!」

慌ただしく動き出す警備員たち。

梨衣はまだ震えが止まらなかった。

瑠唯はそんな梨衣を見て、小さく息をつく。

「……もう大丈夫だ。」

その声は相変わらず冷たかった。

それでも梨衣には、その短い言葉が何より安心できるものだった。