ひまわりが咲く場所で(続)

午後三時。

救急外来に緊急搬送の連絡が入った。

「交通事故です! 20代男性、意識レベル低下!」

救急外来は一気に慌ただしくなる。

「梨衣、処置室の準備。」

瑠唯の声が響く。

「はい!」

梨衣はすぐに処置室へ向かった。

ストレッチャーで運ばれてきた患者に、瑠唯は迷いなく指示を出す。

「血圧。」

「92の58です!」

「採血。CTの準備。」

「はい!」

冷静で無駄のない指示に、スタッフ全員が動く。

いつもの冷徹な瑠唯だった。

処置は無事に終わり、患者の容体も安定した。

「お疲れさまでした。」

梨衣がほっと息をついた、その時だった。

――ガシャン!

ナースステーションの窓ガラスが大きな音を立てた。

「きゃっ!」

床には割れたガラスと、小さな石が転がっている。

石には白い紙が輪ゴムで巻き付けられていた。

梨衣は震えながら紙を開く。

そこには、見覚えのある文字でこう書かれていた。

『他の男の近くにいるな。』

梨衣の顔色が一気に青ざめる。

周囲の看護師たちも騒然となった。

「警備員を呼んで!」

「外を確認してください!」

瑠唯は手紙を受け取ると、一度だけ目を閉じた。

そして静かに言う。

「梨衣。」

「……はい。」

「今日から、この件は俺が対応する。」

「でも……。」

「異論は認めない。」

冷たく言い切る。

その声に迷いはなかった。

すると、一人の看護師が小声でつぶやく。

「瑠唯先生がここまで感情を出すなんて……。」

「初めて見た。」

瑠唯は周囲の視線を気にせず、警備担当へ連絡を入れる。

その横顔はいつもと変わらず冷静だったが、その瞳の奥には鋭い怒りが宿っていた。

(梨衣に手を出すな。)

(今度こそ、守り抜く。)

その頃、病院の外の駐車場。

黒い帽子を目深にかぶった男は、病院を見上げて静かに笑っていた。

「そう簡単には終わらないよ。」

男はスマートフォンをポケットにしまい、人混みの中へ姿を消した。

その正体は、まだ誰も知らなかった。