ひまわりが咲く場所で(続)

翌日の午後。

救急搬送が続き、病院は慌ただしかった。

「梨衣さん、この点滴お願いします!」

「はい!」

梨衣は走るように病室を回り、患者の対応を続ける。

休憩も取れないまま数時間が過ぎた。

ふらっ——。

突然、視界が揺れる。

「……あれ。」

立っていられなくなった梨衣は、その場に倒れそうになった。

その瞬間。

「危ない。」

誰かが梨衣の体を支えた。

「る、瑠唯先生……。」

瑠唯は梨衣を支えたまま、静かに周囲へ言う。

「ストレッチャーを。」

冷たい声に、スタッフたちはすぐ動き始めた。

「先生、大丈夫です……。」

「黙れ。」

短い一言。

「歩けるなら歩いてみろ。」

「……。」

梨衣は返事ができなかった。

瑠唯は小さく息をつくと、そのまま梨衣を抱き上げた。

「えっ……!」

周囲の看護師たちは驚いて目を丸くする。

「あの瑠唯先生が……?」

「患者さん以外を抱き上げるなんて初めて見た……。」

瑠唯は周囲の声など気にせず、診察室へ向かった。

ベッドへ寝かせると、すぐに診察を始める。

「熱はない。脈は少し速い。」

梨衣は申し訳なさそうに目を伏せた。

「すみません……。」

「謝るな。」

瑠唯はカルテを書きながら言う。

「睡眠不足と疲労。それに精神的な負担が重なっている。」

「……。」

「今日は帰宅しろ。」

「でも仕事が……。」

「却下。」

きっぱりと言い切る。

「俺が院長に話す。」

梨衣は驚いて瑠唯を見つめた。

普段は誰に対しても冷たく、必要最低限しか話さない瑠唯。

それなのに、自分にはどこか違う。

「……ありがとうございます。」

「礼はいらない。」

そう言って診察室を出ようとした瑠唯は、一瞬だけ足を止めた。

「無理をするな。」

それだけ言い残し、部屋を出ていく。

梨衣はその背中を見つめながら、小さく笑った。

「先生、本当は優しい人なんだ……。」

診察室の外。

瑠唯は静かに拳を握る。

(莉緒……。)

(今度は絶対に守る。)

その頃、病院の玄関近くでは、帽子を深くかぶった人物が診察室の方向をじっと見つめていた。

「……医者が邪魔をするんだ。」

その人物はスマートフォンを取り出し、新しいメッセージを送信する。

『君のそばにいる男は信用しないで。』

そのメッセージは、梨衣のスマートフォンへ送られていた。