ひまわりが咲く場所で(続)

「おはようございます。」

ナースステーションに入ってきた梨衣は、いつも通り挨拶をした。

「おはよう、梨衣ちゃん。」

先輩看護師たちが笑顔で返す。



「瑠唯先生、おはようございます。」

「おはよう。」


(昨日送ってくれたのに……今日はいつも通りなんだ。)

梨衣は少しだけ肩を落とした。

その日の昼休み。

梨衣が自動販売機へ向かうと、背後から誰かの視線を感じた。

振り返っても、そこには患者や職員が行き交うだけ。

「気のせい……?」

そうつぶやいた瞬間、一人の男性が梨衣のすぐ横を通り過ぎた。

男性は帽子を深くかぶり、顔はよく見えない。

しかし、すれ違いざまに小さく言った。

「今日も会えたね。」

梨衣の背筋が凍りつく。

急いでその場を離れようとしたとき、誰かが梨衣の腕を軽くつかんだ。

「何をしている。」

瑠唯先生だった。

「先生……!」

「顔色が悪い。」

「さっき……知らない人に声をかけられて……。」

瑠唯先生の表情は変わらない。

しかし、その目だけが鋭く細められた。

「特徴は。」

梨衣は帽子をかぶっていたことや、声の様子を必死に伝えた。

瑠唯は短くうなずく。

「病院の警備に伝える。」

「でも、忙しいのに……。」

「関係ない。」

それだけ言うと、瑠唯は歩き出した。

その背中を見つめながら、梨衣は小さくつぶやく。

「先生って、やっぱり不思議な人……。」

瑠唯は聞こえないふりをした。

(……また失うわけにはいかない。)

胸の奥に浮かぶのは、笑顔の莉緒。

あの日、守れなかった最愛の人。

そして今、その面影を持つ梨衣。

瑠唯は誰にも気づかれないように拳を握り締めた。

その頃、病院の駐車場の隅では、帽子をかぶった人物がスマートフォンの画面を見つめていた。

そこには、少し前に撮られた梨衣の写真が映っていた。

「誰にも渡さないよ……梨衣。」