またあなたに会えるなら、この花が咲く庭で。

「学友を自室に招きたいのですが、よろしいでしょうか?」
軽い驚き。

想定内の反応だ。

俺に学友がいることもあるだろうが。

「構いません。しかしお気をつけてください。取締りが厳しくなっています。誰がどこで聞いているか分かりません」

「はい」

俺がそこまで気が付いていることへの驚きだ。

ラジオや新聞、ニュース映画。

くまなく確認をした。

⸻大本営は間違いなく。

「では、失礼いたしました」

……お嬢さん。

「た、立ち聞きをしていた訳ではありませんの。お上りさんにお話しがあったのですが、お部屋にいらっしゃらなかったため、こちらかと」
「は、はあ」

「ご学友の方がいらっしゃるのですか?」
「え、ええ」
「どんな方ですか?」
「普通の男ですよ。お、お嬢さんは、僕に用があったのでは?」

「あ、そうです。本日のご予定を聞きに参りましたの」
「どちらへ行かれるのですか?」
「善福寺です。今度はご機嫌取りはおやめになってくださいね」
「はい」

飾り気のない笑み。

とても真似できない。

◇ ◇ ◇

本日は紫陽花色でお洋服の色をまとめてみました。
色合いも落ち着いていますし、問題ありませんでしょう。


⸻あなたの方が綺麗ですよ⸻


ふふ。お上りさんにはこちらより。

「創建者は弘法大師でしたわね」
「はい。善福寺の創建伝承はかなり古く、創建は天長元年頃。正式名称は、麻布山善福寺。麻布の中でもかなり古格を持った浄土真宗系の寺で、起源は平安末期から鎌倉初期までさかのぼる古寺扱いなのです。特に重要なのが、江戸以前から麻布の地に根を張っていた。つまり」

「ふふ。お上りさん。一度に言われても、わたくし分かりませんわ」

「格式高い寺伝を持っていますが、創建者の弘法大師は伝承です。寺は千年近くこの地にあったのでしょう」

「ではこれからも、ずっと東京を見守ってくださるのですね」

「…ええ」

お上りさんのお洋服、今回も違いますね。

上質なお洋服を何着もお持ちです。

黒のジャケットは良質なサマーウールで、薄手のニットベストはシルク込みでしょうか。

お父様もおしゃれがお好きなので、ご自分でお洋服を選ばれています。

しかしお上りさんも同様の、おしゃれな殿方、に見えませんの。

お友達に聞くところによると、下宿人とは『学校に通うための部屋を借りている人』のようです。

なら、ここまでのお洋服が必要でしょうか。

お友達のお父様は、お洋服に興味がおありにならないので、お母様が選んでらっしゃる、と聞いたことがあります。


では、お上りさんも、誰かが上質な外出着をたくさんご用意された?

お上りさんのお母様?


⸻何のために。


「お嬢さん、どうされました」

「あ、すみません」

いけませんわ、わたくし。

おしゃれとお洋服のこととなると、つい考えてしまって。

ふふ。そういうところは、お父様とそっくりとよく言われますわね。

「お話し難しかったですか?」
「はい」
「どこらへんですか?」
「全体です」
「では…」
「あ、わ、分かりましたわ。千年近くこの地にあったのですわね」
「はい」

ふふ。お上りさんのお話しは、ちゃんと聞かないと2周目に入りますわね。

「このイチョウの木にはどんな謂れがありますの?」
「植物は専門外なので分かりません」

まあ!

「お上りさんにも分からないことがありますの?」
「当然ありますよ。植物、動物、機械関係ですね」

ふふ、そうでしたのね。

「誤解しておりました。辞書のように何でもご存知なのかと」
「そんな堅物な男に見えましたか?」
「ええ、箱から出さないと出て来ないところは、そっくりですわ」