またあなたに会えるなら、この花が咲く庭で。

ガラッ!
しまった!足が滑っ⸻

ドン!

あいつか。

はあー。

元はといえば、こいつのせいで俺は睡眠不足なんだ。


「……お前、家族は?」

「父と母と、嫁いだ姉が一人。君は?」

「両親、兄、姉、弟。親戚がたくさん」

「そうなんだ。君から話しかけてくれるなんて嬉しいな。ところで、兄さんたちを見かけなかったか」

……。


「ここにいないなら、先に行ったんじゃないか?」

「そうか。君がそう言うならそうだろう。兄さんたちも、一声かけてくれればいいのに」

……そうか。

◇ ◇ ◇

やっと到着だ。
「俺はここの村長と交渉してくる。お前は俺の荷物も持ってここにいろ」

今日は熟睡できるといいが。

「ゲーテ」
「なんだ!」
「君が泊まる場所は、俺の所じゃないだろ?もっといい場所で寝られるのに、なぜ俺の場所に来るんだ?」

気付いていたのか。

しかし。

「お前の場所の方がいいからだよ」
「ああ!待ってる」

素直なやつだ。

上官や先輩兵の中には、俺の好かん行いをする者もいる。
誘ってくる者も、だ。

それならあいつの方が、うるさいだけで嫌悪はない。合理的だ。

◇ ◇ ◇

……。

この村長、数日の滞在は確かに認めた。
曖昧な表現もしていない。

しかし。

何か。

いや、根拠のないことを上官に報告することは、隊の混乱を招く。


「失礼いたします、村長との交渉が終わりました」
「数日の滞在は認める、とのことです」
「そうか。今のところ敵に見つかることなく進めているな」
「はい。上官の指示が的確であるためだと」

上官は大きく息を吐いた。

当然だ。

首都は今、敵に占拠されているだろう。

ここまで無事に来られた安堵の息だ。

「お前も疲れているだろう。どうだ?今日は付き合わんか?」
「私はタガログ語の勉強がありますので」
「そうか。たまには肩の力を抜けよ」
「失礼いたしました」



⸻俺より先に寝てるなよ。



「おい!こんなところで寝るな!」

「あぁ、ゲーテか」

「交渉成立だ。さっさとあのボロ小屋に行け」



……伝えるべきか。



今日の小屋はずいぶんひどいな。

天井も壁も隙間だらけ。


「俺は一眠りする」
「俺は、少し外歩いてくるよ」
「ああ」

◇ ◇ ◇

……。

ドオォン!

⸻敵襲!ゲリラか!

⸻やはり村長は。

あいつは。

ちゃんと戻ってるな。

こんな状況でよく寝てられるものだ。

「おい!起きろ!」

「うあぁ…」

隙間がこんな時に役立つとはな。

「今出ても的になるだけだな」

「あ!ゲーテ待て」
「なんだ」
「ここを見てくれ」

……。

床の修繕の跡?

いや、違う!

「床の上の棚を退かせ!」

おそらくこれは。

「地下倉庫だ。直ぐに入れ!」


ドン!

入ってきたな。

⸻いいか、声を出すなよ。

⸻分かった。

ギシ。

ギシ。

ギシ。

ドン!

……。

「行ったみたいだ。出るぞ」

「思ったより、よく調べなかったな」
「こちらの待ち伏せを警戒したのだろう。しかしどうして、ここに地下倉庫らしき物があると分かった」
「彼女が教えてくれたんだ」

俺には見えない。

「ここはおそらく倉庫だったんだ。今となっては住民すらも使わなくなって、地下倉庫の存在も忘れられていたのだろう」

またも命拾いした。

運がよかった。

「ゲーテ、これからどうする」
「弾薬と武器がなくなれば撤退するはずだ。そう長くは戦えない。交代で見張りをして、敵の撤退を待つ」
「分かった」

……自分で考えないが、俺の考えに素直に従うのは長所かもしれん。

◇ ◇ ◇

ゲリラの撤退は早かったが、隊の活動開始は朝になってからであった。

かなりの死傷者を出した。

上官も想定外の出来事に頭を抱えていた。

「村長は直ぐにでも村から去って欲しい、と震えながら言っていました」

「やむを得ん。歩ける者は手を貸して歩かせる。村長には、すぐ去る旨を伝えろ」
「は!」

村での埋葬を願い出た。
快く、とまではいかなかったが、「それくらいで出て行ってくれるなら助かる」と言ったところだろう。

上官が重傷者が並べてられている(ござ)へ行った。

「…我々は北へゆく」

「…わ、わかりました。後から、いきます」

ザッ、ザッ。

「⸻総員、直ちに集合!」


「これから北の集落を目指す。怪我人には手を貸し、全員がその村まで辿りつける様、互助しろ!」
「は!」

…あいつは。

「大丈夫ですか、立てますか?」
「うぅ…すまない、すまない…」
「頑張りましょう」

それがあいつの取り柄、か。